進退を懸けて臨んだ大相撲名古屋場所で、全勝優勝を果たした横綱白鵬(36=宮城野)。結びの一番を終え、オンラインによる取材に応じた際には「これで横綱として899勝。あと1勝目指して頑張りたい」と宣言。同場所前には崖っぷちに立たされていながらも、節目の横綱900勝を見据えるなど現役続行へのこだわりを見せた。

入門して20年以上がたった。45度の優勝を誇る白鵬も、さすがに衰えは隠しきれない。名古屋場所では、立ち合いで仕切り線から大きく下がって立ったり、張り手や肘打ち、四つに組まずに距離を取って攻めるなど、なりふり構わない姿が連日続いた。この姿に、横綱審議委員会(横審)も苦言を呈したが、裏を返せば勝ちへのこだわりが相当なものだったということだろう。

進退を懸けて土俵に上がり、6場所連続休場明けで臨んだ名古屋場所で全勝優勝。なりふり構わない気持ちだけでは当然果たせなかった。7年以上にわたって白鵬の主治医を務めてきた整形外科医の杉本和隆氏(苑田会人工関節センター病院長)は、名古屋場所前にこう証言していた。

杉本氏 横綱白鵬に「1日一番」という考えはない。常に15日間全部を見ている。一流のプロゴルファーもそう。1日目の18ホールの流れ。ゴルフの試合は4日間。初日、2日目はこういうゴルフをやって、3日目はこうやって、最終日はこうやる。それと同じで横綱も15日間が初日から見えている。15日間の彼の組み立てがちゃんとはまるのか。今は膝が100%のパワーが出せなくても「こういう相撲を取る」とシミュレーションを一生懸命やっている。彼はご存じのように低く踏み込んで、相手のまわしよりも頭が下なんじゃないか、というぐらいの相撲を取るのが1番いい時の相撲。多分今回はそれができないと思う。それが出来ない中でも相手に応じて取り口を作って自分の型に持っていく。それが今回の場所だと思います。

杉本氏が証言していたように、確かに白鵬は全盛期のような相撲は全くと言っていいほどに取れなかった。それでも全勝優勝。日に日にぎこちなさが取れていったように、15日間の組み立てがうまくいった、というところだろう。いたるところに古傷を抱えながらも、白鵬には他の力士が持ち得ていない経験の数が大きな武器になっていた。秋場所ではどんな15日間を見せてくれるのか、楽しみでならない。【佐々木隆史】