力士の歌声を久々に聞いたというファンも、多かったのではないだろうか。

日本相撲協会は8月11日から4日間、公式ユーチューブチャンネルに「現役力士が歌ってみた」と題した企画の動画を投稿。新横綱の照ノ富士(29=伊勢ケ浜)らが伸びやかな歌声を披露していた。場所は都内のスタジオで、撮影日は4月。編集作業などの調整で約4カ月温めることになったが、照ノ富士の横綱昇進と重なって好タイミングでの配信となった。

協会でユーチューブなどの企画を担当する職員によると、普段は視聴していない年齢層からも高い関心を集めたという。「いつもはそこまで多くはないけど、10代、20代の方に多く見ていただきました。60代の男性が多いのが特徴的だったんですが、この動画(歌企画)だと女性の方も多く見てもらっていますね」。歌った力士は照ノ富士のほかに美声で知られる平幕の阿武咲や、人気小兵力士の翔猿、十両炎鵬の4人。人選は、協会ファンクラブを担当する三保ケ関親方(元前頭栃栄)や、広報部の高崎親方(元前頭金開山)らと職員が相談して決めた。

動画の反響は大きく、3日時点で4人の「歌ってみた」動画は計28万回以上も再生されている。テレビでも取り上げられたが、力士=歌がうまいという認識は、全ての世代に浸透していないかもしれない。同職員は「テレビで若いアナウンサーの方が『力士って歌がうまいんですね』と、知らなかったという反応もあった。やっぱり年配の方だと昔の歌番組でやっていたのでご存じだと思うんですけど、なかなかそういう機会がない中で、誰でも見られる媒体で出せたのは良かったなと思います」と意義を口にする。

角界では19年11月から力士のSNS使用を禁止している。その直後、ある関取に聞くと「(SNSで)ファンとコミュニケーションを取ることで、励みになる部分があったので個人的にはショックです」と話していたことが印象に残っている。さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ファンと力士と触れ合う機会がめっきり減った。さまざまなリスクを抑えながらファンとの距離感を縮めるためにも、協会公式ユーチューブの重要性はますます大きくなりそうだ。

場所中は15日間毎日、親方衆が取組を解説したりフリートークをする「親方ちゃんねる」が配信され、個々人でも高崎親方が得意の料理を生かした企画を持ち込むなど、動画配信に対して協会内でも士気が高まっているという。土俵の充実はもちろん、コロナ禍でいかに土俵外の力士の魅力を発信するか協会側も工夫を凝らしている。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)