プロボクシングの元東洋太平洋スーパーフライ級王者松本亮(22=大橋)がリベンジマッチに挑むことになった。12月30日に有明コロシアムで、5月に5回TKOで敗れたビクトル・ロペス(メキシコ)と再戦することが22日、同ジムから発表された。メインでWBO世界スーパーフライ級王者井上尚弥(23)が河野公平を迎え撃つ防衛戦の前座戦として、組み込まれた。

 

 両拳がミットを打ち抜く度に高まっていくような裂音の連続は、朗報に高まる松本の鼓動に沿うようだった。「練習も充実しているし、会長、トレーナーがゴーサインを出してくれて、感謝しています」。汗がしたたる端正なマスクに興奮を静かに押しとどめながら言った。「意外と体力が戻ってきている」。

 意外なのは、覚悟した逆境の裏返し。始まりは5月の試合当日の朝だった。ゴングが鳴らされるずっと前に苦境に陥っていた。繰り返される嘔吐(おうと)は、嫌な予感の的中だった。「数日前から体調が良くない感じはあったんですけど、前日計量もクリアできたので」と不安を打ち消して当日を迎えたが、体はもたなかった。原因は4000~5000人に1人とされる持病の副甲状腺機能亢進(こうしん)症の再発。副甲状腺ホルモンの過剰分泌による高カルシウム血症などを引き起こす。症状は分かりながらも、「チケットを買ってくれた人がいる」と棄権の2文字は頭から消してリングに上がったが、「ふらふらで…。立っているのもきつかった」。高校4冠、11年12月のプロデビューから17戦全勝(15KO)と駆け上り、世界前哨戦と目された試合でのTKO負けは、病の他に原因を探るのが難しかった。

 試合後に病院で検査すると、高校生の時に行った摘出手術で患部を完全除去できておらず、副甲状腺が肥大化した事による再発だった。「死んでいたかもしれないよ」。医者の宣告にも、敗北感と不運への後悔が募った。再びの摘出手術をしたのは9月。4時間半の闘いを終えると、そこから激しい運動は禁止。1カ月間はジムワークもできなかった。10月に入ってからの再開だけに、「意外と体力が戻ってきている」と驚くのもうなずける。ましてや、年末に試合をできるとは手術台に横たわっている時には思いもしなかっただろう。

 同学年の井上尚弥と比べて、「パンチ力なら松本が上」という声もあるほど、大器に期待も高かった。モデル活動もするなど、イケメンボクサーは話題も豊富だ。小6から見守ってきた大橋会長いわく「必殺遊び人」。ボクシング一途というわけではなく、22歳の若者らしくしっかりとプライベートも充実しているようで、「しっかり練習もするんだけど、どれだけ体力あるんだろうね」とあきれ顔で、むしろその素質を認めてもいる。

 当人は術後の体調について問われると「むしろ元気になっちゃって…」と言ってから、大橋会長の視線に「しまった」の顔。しっかり「どういうことだ」とジャブを入れられ、気まずそうに笑っていたが、そんな様子も病の不安から解放された証しだろう。

 雪辱戦に快勝すれば、再び世界の頂点への道筋も見えてくる。「気持ちが先にいかないように。まあ、いっちゃっても、めちゃくちゃ打ち合えば良いという気持ちです」となんともな自信も漂う。世界タイトルマッチが並ぶ年末興行だが、前座だからと興味関心を寄せないのは惜しい。そんな戦いを見せてくれそうだ。【阿部健吾】

 ◆松本亮(まつもと・りょう)1994年(平6)1月11日、川崎市生まれ。浅田小3年で横浜さくらジムでボクシングを始める。アマ通算53勝(39KO)3敗。家族は両親と姉2人、妹1人。身長173センチの右ボクサーファイター。