「後出しジャブ」がKOを生む。ボクシングのWBC世界バンタム級王者山中慎介(34=帝拳)が1日、今日2日に両国国技館で挑む12度目の防衛戦に向けた前日計量に臨み、リミットを100グラム下回る53・4キロでパスした。53・0キロだった挑戦者で同級6位カルロス・カールソン(メキシコ)対策に用意したのは多彩なジャブ。「神の左」を打ち込むため、相手がパンチを打ち返してきた瞬間に合わせる「後を取る」ジャブが、試合の鍵を握る。

 陽気さが鼻についた。計量を問題なく終えマッスルポーズでアピールを終えた山中が、カールソンを名指しした。「メキシカン特有の陽気さ、アレがたまにイラッとする場合ありますね。しっかり決着つけたい」。来日後から笑みが絶えないラテン気質。緊張感の乏しさは、11度防衛王者の目についた。倒す。「普通に練習してきたことを出せば、自分のパンチが当たるでしょう。自然にそうなる」。

 100回を超えたスパーリングで磨いたのは、「神の左」ではなく右だ。警戒される左拳を当てるために道筋をつける役割。「いままでより、いろいろ工夫したジャブを打たないといけない」。デビュー戦の黒星後22連勝中の挑戦者。玉砕覚悟で勢いある前進攻撃が予想される。それを阻む。

 準備したのは、相手の打ち返しをかわし、外し、放つジャブ。従来は左を当てる距離を測るために、自ら仕掛けるジャブが専らだった。それを「前」のジャブとすれば、V12戦に用意したのは、相手が動いた「後」のジャブ。山中がパンチを打ち、それに反抗して前に出てくる瞬間を止める意図を持つ。そして、左が当たる距離感を保つ。大和トレーナーは「前後を支配したい」と表現する。

 「年に2度の晴れ舞台ですからね。このためにやってきた。試合でしっかり証明したい」。昨年9月以来の“発表会”が待ち遠しかった。勝利すれば、具志堅用高が持つ、日本男子の世界戦連続防衛記録13回に王手だが、記録に気持ちはない。「うれしいですね」。あるのは新しい武器をお披露目する楽しみのみ。【阿部健吾】