ボクシングの日本スーパーフライ級タイトルマッチ10回戦(22日、東京・後楽園ホール)の前日計量が行われた21日の午後、都内の日本ボクシングコミッション(JBC)にはいつもと違う空気が流れていた。初防衛戦に臨む王者中川健太(31=レイスポーツ)と挑戦者で同級1位船井龍一(31=ワタナベ)が顔を合わせたのだが…。

 「こんな顔してたんだなあ。こいつの顔、面白いので」。

 会場に響く、苦笑まじりの中川の声。計量をパスした対戦相手同士が向き合うフェースオフは、気持ち的、性格的にどうあれ、相手に「見せつける」ために背伸びして、互いににらみを効かせるのが常なのだが、この日はどうしてもそんな雰囲気にならず、2人とも思わず笑ってしまい、すぐに目をそらしてしまった。

 それもしょうがないと感じるのは、王座を争うのが都立港工高の同級生で、ともにボクシング部を設立した仲だから。友達ゆえの丁々発止が自然にでてしまうのも致し方ない。船井は中川の「面白い顔」発言に、「先制ジャブをもらってしまいましたね」と苦笑していた。

 ただ、もちろんこの空気は試合とは別物。中川は「会ったらほのぼのしちゃいましたけど、(試合では)30分間だけ思いきり殴ります」、船井も「感慨深いですが、この舞台で戦えるからこそ倒したい」と表情を引き締めた。3戦のみで05年に1度引退した中川が復帰したのは、09年に船井の試合を見たのがきっかけだった。互いに「漫画みたい」というタイトルマッチだからこそ、モチベーションは高くなる。

 1月の発表会見以来連絡を取らなかった2人だが、唯一、試合後に決めていることがある。勝っても負けても、2人でラーメンを食べに行くことだ。行き先は試合が決まってから1度だけ、昨年末に2人で食べに行った目黒の「ラーメン二郎」になりそう。中川は「負けた方がおごるですよね。あいつが好きなんで、自分は付き合ってるんです。おごる気はないですよ」とピシャリ。負けた方がおごるのルールを聞いた船井は、「分かりました」の短い言葉に気合を込めながらも、うれしそうにうなずいていた。