ダブル世界戦が行われ、井岡一翔(28=井岡)が5度目の防衛に成功した。自身初の4連続KOこそ逃したが、同級2位ノクノイ・シットプラサート(30)に3-0の大差判定勝ち。元同ライトフライ級王者具志堅用高の持つ「世界戦14勝」の日本記録に並んだ。今後は他団体王者との統一戦実現か、スーパーフライ級で日本初の4階級制覇を視野に入れる。井岡の戦績は22勝(13KO)1敗。

 井岡勝利の流れが決まった終盤は、コンビネーションの雨あられだった。ダブル、トリプル、フォースまで及ぶ左の連打。右も織り交ぜ、ジャブ、アッパー、ストレートをボディー、顔面へ。11回にノクノイをぐらつかせた。12回もあと1歩だった。

 「KOで仕留めたかったけど、ダメでした。勝ったけど、すごく悔しい」。具志堅の世界戦14勝に並んだが「正直、内容に全然満足できないし恐縮です」。日本の世界戦13連続防衛記録も持つレジェンドに敬意を表しつつ、悔しすぎる完勝を振り返った。

 誤算があったとすれば、タイ国内で61連勝を誇ったノクノイのタフさ。それと挑戦者の急所を守るファウルカップの位置が5センチほど高く、通常ならボディーの範囲まで及んでいたこと。「あんなに上げるなんて…」と父の一法会長(49)。その影響で3回にローブローで減点1を食らった。ボディーを有効に使う勝利の方程式が微妙にズレた。それでも8000人の観衆は沸き、格の違いは見せた。

 試合のポスターに書かれたキャッチフレーズは「THE ONE AND ONLY 唯一無二の存在へ」。現在、国内ジム所属の世界王者は10人いるが、絶対の存在になりたい。「ボクシングという枠を超えて伝えられるものがあると思う」と、ジャンルにとらわれたくもない。例えば、野球のイチロー。「他にも数多くの選手、スラッガーがいるけど、誰もが(イチローだけは)違う目で見ている」。前人未到の領域に踏み込みたい。

 今年の大目標は他団体王者との統一戦。WBO同級王者で中国の鄒市明(ゾウ・シミン)らを候補に「プロモーターとして、いいマッチメークをしていく」という一法会長は、一方で「スーパーフライなら王座を狙える」と、本人次第で日本初の4階級制覇も視野に入れている。

 試合後のマイクパフォーマンスで王者は「具志堅さんの記録に並べたのは、支えてくれるみなさん、ファン、そしてフィアンセである彼女のおかげです」とコメント。婚約者の歌手谷村奈南の話題を持ち出す余裕もあった。唯一無二の存在へ。井岡は確かに歩を進めている。【加藤裕一】

<他団体フライ級王者>

 ★WBC ファン・エルナンデス(30=メキシコ) 11年8月にWBC世界ミニマム級王者井岡(当時)の初防衛戦で0-3判定負け。5月20日に比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)と初防衛戦を行う。

 ★WBO 鄒市明(ゾウ・シミン、35=中国) 北京、ロンドン五輪のライトフライ級(48キロ)で2大会連続金メダル。

 ★IBF 現在空位。昨年12月に元WBO世界ライトフライ級王者ジョンリル・カシメロ(フィリピン)が王座返上。

 ◆井岡一翔(いおか・かずと)1989年(平元)3月24日、堺市生まれ。元世界2階級王者井岡弘樹氏のおい。大阪・興国高で史上3人目の高校6冠。08年東農大中退でプロ転向。7戦目での世界王座獲得は当時の国内最速記録。165センチ、右ボクサーファイター。