WBO世界スーパーフライ級3位井岡一翔(29)が、日本ボクシング界初の世界4階級制覇を逃した。同級王座決定戦で、同じ世界3階級覇者の同級1位ドニー・ニエテス(36=フィリピン)に1-2の判定負け。ジャッジに泣いたとも言える結果にも弁解はしなかった。

腫れも、傷もない。ファイト後と思えぬきれいな顔で、井岡は語り始めた。「悔しいし、残念。こうやれば良かったという思いは尽きないけど…。きょうは僕の日じゃなかったということ」。世界4階級制覇を逃した無念さを口にしながら、表情に暗さはなかった。

ジャッジが1対2に割れたスプリット・デシジョンは、ハイレベルな技術戦。序盤の2、3、4ラウンドの接近戦で、ニエテスのカウンターを食うと、距離をとり、基本の左で上下を打ち分け、逆に終盤はカウンターをヒットさせた。「単純にもっといけば良かった、とは思う。攻めたら勝つわけですから。でも緊張感があって、1ミリの油断もできない展開だった。距離の駆け引き、もらえない怖さもあって、互いにペースを握れなかった」という。

世界王者19人を育てた名伯楽イスマエル・サラス・トレーナー(61)らと5週間で108ラウンドのスパーリング。「完璧なカウンターを打つ。直線的でなく、柔軟でハイレベルな相手」(同トレーナー)を想定し、対策した。井岡は「やってきたことは出せた」と言いつつ「後悔はすごくあるけど」と悔いた。

大魚は逃したが、終わったわけじゃない。17年の大みそかに引退し、父一法氏が会長の井岡ジムを“卒業”する形で、昨年9月に米国で復帰した。「サッカーならヨーロッパ、野球ならMLBのように、ボクシングでも、という気持ち。日本の中だけの世界王者でいたくなかった」と海外に打って出た。「無職ですから。自由にやりたい」と、今後も主戦場を米国中心で考える意向を表明した。

井岡と契約する米大手事務所のトム・ローファー氏はこの日、井岡の敗戦を見届けながらも「ニエテスとのリマッチも考える。カズトを100%信じている」と言い、変わらぬサポートを約束。3月末に米国で開催予定の軽量級中心イベント「SUPERFLY4」が再起戦の舞台になる可能性は十分だ。

日本ボクシング界初の世界4階級制覇に向け「逆に燃え上がっています。自分の未熟さで闘志に火が付いた」。引退、電撃復帰、歌手谷村奈南との離婚もあった波乱の2018年から新たな年へ。3月24日で30歳になる挑戦者の夢は、まだ終わらない。【加藤裕一】

◆井岡一翔(いおか・かずと)1989年(平元)3月24日、大阪・堺市生まれ。元世界2階級覇者井岡弘樹氏のおい。興国高で高校6冠。08年にプロ転向。7戦目で世界王座獲得。15年4月に世界最速18戦目の世界3階級制覇。165センチ、右ボクサーファイター。