一発のパンチですべてが変わるボクシング。選手、関係者が「あの選手の、あの試合の、あの一撃」をセレクトし、語ります。IBF世界スーパーバンタム級暫定王者岩佐亮佑(30=セレス)があげたのは、現ライト級3団体統一王者ワシル・ロマチェンコ(32=ウクライナ)の「心を折る軽打」。世界が注目した「五輪2大会連続金メダリスト対決」で、ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)を翻弄(ほんろう)した戦いを語りました。(取材・構成=奥山将志)

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▼試合VTR 17年12月9日、米ニューヨークで、08年北京五輪、12年ロンドン五輪金メダルのWBO世界スーパーフェザー級王者ロマチェンコが、00年シドニー五輪、04年アテネ五輪金メダルのリゴンドーの挑戦を受けた。高い技術戦が期待されたビッグマッチだったが、「ハイテク」の異名を取るロマチェンコが、その強さを見せつける展開となった。ジャブの差し合いで早々にペースを握ると、2回以降は手数を重視した軽いパンチと、出入りのスピードでリゴンドーを圧倒。一方的な展開で迎えた6回終了時に「キューバの英雄」が棄権を申し出た。これにより、ロマチェンコは、4試合連続で相手の棄権によるTKO勝ち。相手に何もできない絶望感を与える、その強さが際立つ一戦となった。

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相手の頭を触るような「パチ、パチ、パチ」という軽いパンチが、見ていて恐ろしく、芸術的とさえ感じました。あのリゴンドーに何もさせなかった。すごい試合でした。

ロマチェンコの特徴は、一発の強さはないですが、すべての種類のパンチを打てること。そして、相手の周りをぐるぐる回りながら、常に相手を触り続ける。一般受けする選手ではないかもしれませんが、対戦相手からすると、崩しにくい、本当に戦いにくい選手だと思います。

選手目線で見れば、学ぶべきところが多いですね。たとえばメイウェザーやハメドの動きはまねできませんが、ロマチェンコはできる。

ベースにあるのは運動量で、どれだけ動くんだというぐらい徹底して足を動かし、出入りのボクシングでペースをつかむ。防御も、ガードをしっかりして、上体の動き、膝の沈め方でパンチをかわす。ナチュラルな「天才」というより、基本を忠実に追い求め、努力でつくりあげた「天才」だと思います。

アマチュアのような戦いで、プロでも新たな形をつくりだしたロマチェンコ。学ぶべきところは多いですし、少しでも自分のものにしていきたいですね。

◆岩佐亮佑(いわさ・りょうすけ)1989年(平元)12月26日、千葉・柏生まれ。地元のセレスジム開設に合わせ、中2で入門。習志野高3年で3冠。アマ戦績60勝(42KO)6敗。08年プロデビュー。11年に日本バンタム級王者山中慎介に挑戦も失敗。2戦後に日本同級王座、13年に東洋太平洋同級王座獲得。15年に英国でIBF世界同級暫定王座決定戦での世界初挑戦は失敗。17年9月にIBF世界スーパーバンタム級王者小国を破り王座獲得。19年12月にIBF同級暫定王座を獲得し、王座返り咲きに成功。171・5センチの左ボクサーファイター。家族は両親と姉。

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