プロ通算46戦無敗でRISE世界フェザー級王者・那須川天心(23=TARGET/Cygames)が、世紀の一戦を制した。

K-1の3階級制覇王者で現スーパーフェザー級王者武尊(30=K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST)と、58キロ契約の3分3回(延長1回)で対戦し、5-0の判定勝ちを収めた。14年7月にプロデビューし、キックボクシング42連勝。宣言通り、この試合を最後にボクシングに転向する。

那須川は1回終了間際、左ストレートをカウンターで決めて、先制のダウンを奪った。2回にバッティングを受けて、右目が腫れ上がるハンディを負ったが、その後も必死の反撃で前進する武尊に決定打を許さなかった。

試合後はリング上から「この試合を長い間待ち続けたファン、武尊選手、ありがとう。満員の東京ドームで最後に試合ができて本当に幸せです。武尊選手がいたから強くなれたし、キックを続けられた。勝って、自分が強いと本当に思いました」と、感極まった表情で大観衆に向かって語りかけた。

試合前、那須川は話していた。「ワクワクする」。常に追われる立場にいた“神童”に、忘れていた感情が湧き起こった。久々に胸の高鳴りを感じる一戦だった。

K-1で3階級制を成し遂げ、41戦40勝(24KO)1敗の圧倒的な成績を誇る“最強”武尊。団体の中で「敵がいない」と言われ続けた那須川自身の境遇と重なった。頂点に君臨したこの5年間において「那須川よりも強いのではないか」と評されることもあった存在だった。「そんな時こそ、僕は強い。キックボクシング人生でやってきたことをすべてぶつける」。15年の対戦要求から約7年、思いのたけを全てぶつけた。

心の準備の重要性を思い知らされたのは、大会前。プロボクシング元世界5階級制覇王者フロイド・メイウェザー(45=米国)からのアドバイスだった。ビデオ通話で話し、「考えるな。すべては試合が終わってから考えろ。今度の相手は俺じゃない」とエールを送られた。

18年大みそか、総合格闘技イベントRIZINで、ボクシングのスパーリング形式で対戦。人生初を含む3度のダウンを奪われ、記録がつかない非公式戦ながら、唯一「勝てなかった試合」を戦った相手だ。

レジェンドのその一言に、那須川は「(自分がやってきたことは)間違いがないと思えた」。自分を信じ、迷いなく拳を振りぬいた。

この試合を最後に、ボクシング転向を表明していた。それでも「1度ボクサーになる気持ちは捨てた」と、燃え尽きる覚悟で臨んだ。先月末に4泊5日で行われたRISEの合同合宿では、選手からの質問に惜しみなく答えた。「年上、年下関係なく、練習の姿勢などをみんなに見てもらおうという気持ちで(合宿)に臨みました」と試合前に語っていた。

世紀の一戦で見せた渾身(こんしん)のファイト、残した数々の伝説は、キックボクサーの道しるべになる。

 

▽1R 那須川が左ストレート。武尊は右のミドルキックを返す。互いに距離をとりながらの探り合い。武尊が出てくるところに合わせ、那須川が左フック。さらに那須川は右ニーキックからのワンツーで主導権握る。終了間際那須川の左がヒットし武尊がダウン。(那須川―武尊 10―8、10―8、10―8、10―8、10―8)

▽2R 武尊が距離を詰めようと前に出る。右のミドルキックから突破口を図るが那須川にうまくかわされる。武尊の頭が那須川の右目上に激突し、ドクターチェックが入って残り約2分で試合が中断。再開後、武尊の右カウンターが那須川をとらえる。残り約1分、武尊が那須川を投げ飛ばして再び試合が中断。武尊には口頭で注意が与えられる。(那須川―武尊 10―10、10―10、10―10、10―10、9―10)

▽3R 武尊が出てくるところ、那須川が左カウンター。さらに的確なジャブを浴びた武尊はあせりか、大振りが目立つ。激しい打ち合いで、武尊が「こいよ」とばかりノーガードで挑発。ラスト30秒で魂の打ち合い。終了のゴングが鳴り、お互い抱き合って健闘をたたえる。判定は5―0で那須川の手が上がった。(那須川―武尊 9―10、10―10、10―10、10―9、10―10)

◆那須川天心(なすかわ・てんしん)1998年(平10)8月18日、千葉県生まれ。5歳で極真空手を始め、小5でジュニア世界大会優勝。その後キックボクシングに転向し、14年7月にプロデビュー。15年5月にプロ6戦目で史上最年少16歳でRISEバンタム級王座に輝いた。16年12月にRIZIN初参戦。18年6月には階級を上げ、初代RISE世界フェザー級王者に。プロ通算成績は46戦46勝(31KO)。20年6月から始めたユーチューブの登録者数は89・2万人。165センチ。

◆THE MATCH 2022 格闘技イベントRIZINを運営するドリームファクトリー・ワールドワイドの榊原信行代表が音頭を取り、キックボクシング主要団体となるRISE、K-1が全面協力。東京ドームを会場に那須川天心-武尊戦の注目対決メインに決めた。その後、選手の要望を受けながら2団体を中心としたファイターたちで全15試合がマッチメークされた。当初はフジテレビが地上波で中継する予定だったが、総合的な判断から取りやめとなり、ABEMAのPPVライブ配信された。

那須川天心が判定勝ち!武尊負けた 世紀の一戦は判定5-0/THE MATCH詳細>>