井上尚弥とやれるようになれ-。キックボクシングのRISE世界フェザー級王者・那須川天心(23)が20日、K-1王者・武尊(30)に5-0の判定勝ちを収めた“世紀の一戦”から一夜明けた会見で、ボクシング挑戦への決意を新たにした。

「ワクワクしてもらいたいので期待して欲しい」と語り、RISE伊藤隆代表(51)と交わした「世界王座戴冠」の約束を果たすべくリスタートを切る。

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伝説の第2章が幕を開く。キックラストマッチとなった「THE MATCH 2022」(東京ドーム)で武尊との最強決定戦を制した那須川は、ターコイズグリーンのチェック柄スーツに身を包んだ。フレッシュな姿は新たな決意を感じさせた。約7年の時を経て実現した因縁の対決を最後に、ボクシング転向を表明していた那須川。改めてその思いを問われると、「チャンピオンになるという思いは誰しもがある。そこに向かってやっていくのは確かです」と言い切った。

那須川が登壇する前の会見では、K-1の玖村から「キックに戻ったらやりたい」と名指しで対戦要求されていた。前日の大会で、自身が「一番強い選手」と認めるRISEの志朗に勝利した強敵だ。これに対し「(戻る可能性は)ほぼない」ときっぱりと否定。「生半可な気持ちで転向する気はない」と覚悟を示した。多くは語らなかったものの、発する言葉には思いが込められていた。

ボクシング転向を決めたのは約3年前のこと。キックでは42戦無敗となった神童は、常に強敵に飢えていた。階級も上げた。総合格闘技にも挑戦した。18年の大みそかには、プロボクシング元世界5階級制覇王者フロイド・メイウェザーともエキシビションマッチにも挑んだ。

パンチの練習でボクシングジムに通う中、新たな世界に魅力を感じた。「刺激しかない。ボクシングでは一番下からのスタート。上にどれだけ強い選手がいるんだろうと思うとワクワクする」。自ら選んだ道だった。

「井上尚弥とやれるようになれ」。高1から8年間、キックの指導をしてくれたRISE伊藤代表が出した転向の条件は、それだった。「やるなら世界を目指せ。それくらいの気持ちがなければ送り出さない」。今月10日に、最強ボクサーを決めるパウンド・フォー・パウンド(PFP)で日本人史上初の1位を獲得した3団体統一王者との対戦。米ラスベガスに伊藤代表を招待する約束だ。

「新たな挑戦。自分もワクワクするし、ファンの皆さんにもワクワクしてもらいたいので期待して欲しい」。名実ともに最強になった男が、まっさらな道を歩み始めた。【勝部晃多】