<プロボクシング:WBC世界女子ライトフライ級暫定王座決定戦>◇13日◇韓国・京畿道

 現役助産師の世界王者が誕生した。WBC女子世界ライトフライ級暫定王座決定戦で同級3位の富樫直美(32=ワタナベ)が、同ミニフライ級6位金珍(24=韓国)に3-0の大差判定勝ちを収め、日本ボクシングコミッション(JBC)の女子公認後初の世界王座を獲得した。都内の総合病院で助産師として働く異色の女性プロボクサーは、過去300人以上の子供を取り上げた腕で、世界の頂点に立った。

 160センチの助産師ボクサーが歴史に名を刻んだ。勝利のアナウンスを聞いた富樫は「良かったけど、信じられない」とただ戸惑った。最大7ポイント差の3-0の大差判定勝利。涙はない。勝利の確信はあったが、世界の頂点に立った喜び、実感はすぐにはわいてこなかった。

 開始から強い心で攻めた。敵地のブーイングにも動じず、接近戦を挑んだ。ボディー連打を中心にした攻撃で、相手を何度もロープに詰めた。助産師として300人以上の子供を取り上げた。「ボクシングより恐怖感がある。口から心臓が出るほどのプレッシャーがある」。その経験が初の世界戦で生きた。

 助産師免許取得後の27歳の時、ダイエット目的でボクシングを始めた。もともと兄の影響で子供のころから興味を持っていた。負けず嫌いな性格で「頑張れば頑張るほど結果がついてくることが楽しかった」。05年には全日本アマチュア女子大会を制した。JBCの女子公認を機にプロ転向を決めた。

 5月のプロデビュー戦直後、世界戦の話が舞い込んだ。6月に試合が決まっていたが「チャンスは逃したくない」とオファーを受けた。一方で仕事も継続した。普段は3交代制で都内の産婦人科に勤務。夜勤の日は午前8時半まで働いた後、夜の午後8時から練習を始める。ジムを出ると日付が変わっていることも多いが「人の幸せを応援できる助産師の仕事も好きだから」と苦にしたことはない。この日は助産師の月給の約1・5倍に相当する推定4000ドル(約42万円)のファイトマネーを稼いだ。

 所属ジムの渡辺均会長は「ジム創立27年で初の世界王者だからうれしいね。富樫は恐れずに相手の懐に飛び込むなど、プロ向きの選手」と長期政権を期待した。次戦は秋にも正規王者セムサン・ソーシンポーン(タイ)と統一戦が有力。14日、凱旋(がいせん)帰国する富樫は「助産師もボクシングも自分の一部です。これからも両方とも全力でやっていきたい」と笑顔で言った。