<プロボクシング:WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇23日◇東京・両国国技館

 WBC世界フライ級王者の内藤大助(34=宮田)が、終盤の猛攻で4度目の防衛に成功した。同級13位の山口真吾(29=渡嘉敷)を序盤から圧倒し、11回に右フックでダウンを奪うと、さらに連打を浴びせて1分11秒、TKO勝ち。優位な展開にセコンドからは逃げ切りの指示が出たが安全策は取らず、積極的に打ち合って強さを見せつけた。自らが持つ日本選手の世界王座最年長防衛記録を34歳3カ月24日と更新し、戦績は34勝(22KO)2敗3分けとなった。3度目の世界挑戦だった山口は23勝(9KO)6敗2分け。

 必死の形相で、相手に迫った。内藤は11回、左右のフックから打ち下ろしの右フックで、山口からダウンを奪った。その後は怒とうの連打でTKO勝利。試合後のインタビューでは「メリー…口が乾いて言えねぇ」と苦笑いしたが、ファンにとっては最高のクリスマスプレゼントになった。

 初回から身長6・4センチ、リーチ10センチ差を生かし、ペースを握った。4回と8回の公開採点では3-0と大差のリードで、倒されなければ勝利は確実。セコンドからは逃げ切りの指示を受けたが、守りには入らなかった。「打ち合いは得意だからね。お客さんも喜んでくれるでしょう」。最後まで打ち合って2試合連続のKO劇を呼び込んだ。

 当初は亀田とのビッグマッチが予定された。7月の3度目の防衛戦後のリングに乱入され、挑戦を直訴された。対戦に向けて気持ちを高めたが、10月中旬に陣営同士の交渉は決裂し、相手は山口と決まった。「ファンの喜ぶカードをしたかったが、オレは亀田を追っかけてるわけじゃない」と、気持ちを切り替えた。

 「絶対優位」といわれながら苦戦した7月の清水戦の反省を踏まえ、野木丈司トレーナーとは「どんな状況でも王者の強さを見せて勝つ」ことをテーマに掲げた。普段の生活から見直し(1)午前0時前には必ず寝る(2)8時間以上の睡眠(3)ネットやメールは必要最小限に控える、を実行。「休みの日に練習するのは、サボるのと一緒」とオーバーワークにも注意した。パンチ数(日刊スポーツ調べ)は清水戦の454発から約2倍の839発。スピードでも圧倒し、一部からの限界説も完全に振り払った。

 底が見えない不況で、明るい話題が少ない年末。最近の「派遣切り」のニュースは、内藤にとっても決して人ごとではない。昨年7月までは夫婦共働きの月収12万円の生活。96年10月のプロデビュー直後には派遣社員として鍋工場に勤務し、突然クビを切られたことがある。「いじめられっ子で、社会に出てもリストラされたオレでもここまでできる。あきらめちゃいけない。そんな気持ちが伝わったかな」と不屈のファイトを振り返った。

 最年長防衛記録を更新する34歳3カ月24日で4度目の防衛に成功し、次戦は来春、同級1位ポノムルンレック(タイ)との指名試合が既定路線だ。「強い相手の方が燃える。若い人と練習しても、まだ(体力が)伸びてるしね」。来年以降もまだまだ「国民の期待」に応える。【田口潤】