08年北京五輪柔道100キロ超級金メダルの総合格闘家・石井慧(25=レインジム)が、日本で育まれた「人類最強のDNA」を継承する。明日31日開催の「元気ですか!!大晦日!!」(さいたまスーパーアリーナ)を前に29日、都内で会見。普段の“石井節”を封印し、対戦する旧PRIDEヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードル(35=ロシア)に畏敬の念を持って戦う姿勢を示した。ヒョードルも石井の将来性を熱く語り、日本ラストマッチと覚悟するリング上で、思いを伝えるつもりだ。

 石井は、会見場に姿を現すなり「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。昨年大みそか以来となる日本での試合。しかも“人類最強”、または“60億分の1の男”と呼ばれた男が相手となれば、心躍るのも無理はない。だが、いつもの試合前とは違って、冗舌で陽気に語る姿はなかった。一言一句をかみしめるかのように、ヒョードルへの思いを口にし続けた。

 「PRIDE時代からの伝説であり、強くて憧れの選手。人類最強といわれたころと今も変わりません。不思議というか、幸せな感じです」。柔道家時代から追い続けてきた存在だった。初めて顔を合わせたのは、石井がプロ格闘家転向を表明する2カ月前の08年9月。DREAMの企画で石井に会うため来日したヒョードルに誘われ、企画が中止となった代わりにプライベートで食事をした。石井は「五輪が終わった後で、そのときはファンの1人でした。うれしかった」と懐かしそうに振り返った。

 ヒョードルが日本のリングに上がるのは、最後となる可能性が高い。一時は暗礁に乗り上げかけた交渉がまとまった背景に「石井となら」というヒョードルの思いがあったと自覚している。米ストライクフォース参戦時には約2億円といわれたファイトマネーも、今回は推定2500万円。関係者は「震災からの復興を目指す日本のためにという気持ちと、日本の格闘技界を背負える石井への期待を込めて引き受けてくれた。今回の条件で呼ぶことは今後、どこの団体でも不可能」と話す。

 石井がこの1カ月、本拠地を置く米国で連日9時間の猛練習に取り組んだのは、母国のファンにはもちろん、ヒョードルにも「自分の成長した姿を見せたい」という思いがあったからだ。同じ柔道出身のヒョードルも、国境を越えた後輩への熱い思い入れがある。この日、石井とは別に開いた会見で「私は日本でプロのキャリアを積んだ。その日本のファンにとって石井は大切な選手。プロでもアマでも五輪のタイトルというのは特別です。よく考えて戦っているし、このまま練習を続ければ、いい格闘家になる」と賛辞を贈った。

 決戦は迫った。石井は「持てる力をすべて出す。テークダウンを狙いたい」と開始早々に攻め込む考え。ヒョードルも「もう1度、私たちの試合を見たいと思っていただけるような試合をしたい」と持ち味のハードパンチに加え、圧勝した11月の再起戦で感触をつかんだローキックを武器に迎え撃つ。頂点を極めた男と頂点を目指す若者が明日、ともに縁のある日本のリング上で熱い言葉を交わす。【山下健二郎】