<元気ですか!!大みそか!!:DREAMヘビー級ワンマッチ5分3回>◇31日◇さいたまスーパーアリーナ

 人類最強の壁は、分厚かった。08年北京五輪柔道100キロ超級金メダルの総合格闘家・石井慧(25=レインジム)が、旧PRIDEヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードル(35=ロシア)に1回2分34秒、KO負けを喫した。10年大みそか以来の日本のリングで、柔道家時代から憧れていた強豪に挑んだが、右ストレートからの連打を浴びて沈んだ。今後も世界最高峰のUFC参戦を目指し、移住先の米国で活動する方針。世界レベルを体感した経験を糧に、再出発を図る。

 なすすべなく、散った。無力感と情けなさ、悔しさで石井は顔を覆ったまま動けなかった。1年ぶりの母国の大舞台で屈辱のKO負け。リングに倒れたまま、新年を迎えた。「自分の持っている力をすべて出し切って、日本の皆さんを元気にしたい」。プロ格闘家としての目標に掲げてきた男との念願の対決で、厳しい現実を突きつけられた。

 「最初から様子を見ずに行きたい」。速攻で試合の主導権を握る戦略は、ヒョードルのプレッシャーの前に遮られた。パンチを出した瞬間、カウンターを狙われた。ガードの上からでも容赦ない打撃を食らい、足がグラつく。耐えて反撃の機会を狙っていた1回2分34秒だった。右ストレートを鼻に受けて腰がくだけ、矢継ぎ早に右、左、右の3連打を被弾。流血とともに、もはや立ち上がる力は残っていなかった。

 日本でのラストマッチとする覚悟もあった。UFCやストライクフォース(SF)での出場を目指し、米国へ移住して約1年。貯金を切り崩しながら、ジムと自宅を往復する格闘技漬けの日々を送る中「大成するまでは戻らない」という思いが強くなった。ビザの問題で昨年4月のSFの試合が流れるなど出場機会に恵まれず、精神的に追い込まれた時期もあったが「プロ格闘家になるのなら世の中から姿を消すつもりで、3年間ぐらい練習だけに集中したい」と、希望していた環境に身を置くことができた。

 それでも今回、日本に戻ってきたのは、柔道家時代から憧れ、背中を追い続けてきたヒョードルと戦えるからだった。「世界最強になるためには強いやつを全員倒さなければ意味がない。なぜヒョードルなのかと言われれば、“60億分の1の男”と呼ばれる戦いを積み重ねてきたからです」。

 昨年9月には旧PRIDEで無敗を誇ったパウロ・フィリオと対戦。3回引き分けに終わったが、試合内容で圧倒し「全体的にパワーがついたと思う」と手応えをつかんでいた。自信を胸に臨んだはずだった。だがキック力を強化するなど、進化の過程にあるヒョードルとの差は大きかった。

 このままでは終われない。石井は試合後、病院へ直行したが、その闘争心と向上心はヒョードルの胸に届いた。「石井は現在のところ、日本では最も強い選手の1人だと思う。今後も練習し、総合格闘技を続けていけば、とてもいい選手になる」と若き日本人戦士をたたえた。目標のUFC参戦へ。失意の底からはい上がった先に、夢の続きがある。【山下健二郎】