WBA世界ミニマム級王者の八重樫東(29=大橋)が、催眠術の“極秘トレーニング”で世界王座統一への総仕上げに入った。WBC世界同級王者・井岡一翔との団体王座統一戦へ向けて16日、都内で催眠療法士・今井久義氏(35)の施術と心理カウンセリングを受け、井岡戦へのモチベーションと集中力を高めた。毎試合前に行ってきた“験担ぎの儀式”で、心身ともに準備万端。明日18日に決戦の地・大阪入りする。

 物音ひとつしない診療室で、八重樫はソファに横たわって静かに目を閉じた。国内初の統一戦のリングで、井岡と激しい攻防を繰り広げる自分の姿が浮かび上がる。大丈夫だ、まだまだ行ける-。痛みも疲れも感じない、今こそ勝負-。今井氏のつぶやく言葉にイメージが次々と膨れ上がり、やがて2本のベルトを巻いてリングに立つ自分が、まぶたに浮かんだ。

 05年のプロデビュー当時から、試合前に欠かさず催眠療法を受けてきた。八重樫は「勝つために、取り入れた方がいいと思うことは全部やる。ベストを尽くして戦うための、験担ぎの儀式ですね」という。専門家に師事してフィジカル強化に取り組み、200回以上のスパーリングを重ねて、肉体のコンディションは最高潮に仕上がった。残すのは精神面。絶対的な自信を得るための最終調整だった。

 一般的に知られるショー的な催眠術とは異なり、催眠療法は潜在能力を引き出すカウンセリングとして行われる。今井氏は「あくまで心理的なサポート。試合をするのは八重樫選手なので、効果を立証することはできない」とした上で「ゴングと同時に集中力が高まることで相手のパンチが見える、痛みや疲れを感じにくいといった効果はあると思います」と説明した。

 世界初挑戦だった07年のWBC世界ミニマム級王者イーグル京和戦では王座奪取こそ逃したが、試合中に顎(がく)関節を骨折しながらフルラウンドを戦い抜いた。八重樫は「その時は分からないけれど、今になって思えばということはありますね」と振り返る。

 明日18日の大阪入り後も試合当日まで、携帯電話のスピーカー機能を使って今井氏の催眠術を受ける予定。「やるべきことをすべてやって、勝ちます」と必勝を誓う八重樫。決戦まで残り3日。人事を尽くして天命を待つ。【山下健二郎】