日本人初の3階級制覇王者でWBA世界バンタム級王者亀田興毅(26=亀田)が、引退の時期を考え始めた。4日に迫った王座統一戦(大阪・ボディメーカーコロシアム)を前に、現在の心境を語った。03年12月のプロデビューから来年で10周年、そして次の試合がプロ30戦目と節目を迎える。家族を背負い、会社を背負い、戦い続けてきた男はどこへ向かうのか。亀田にとって史上最強挑戦者、暫定王者ウーゴ・ルイス(26=メキシコ)を迎える一戦から目が離せない。

 テレビや大勢のマスコミに囲まれた亀田と、1対1のインタビューで向き合った亀田は、まるで別人だ。もの静かなたたずまいで、淡々と質問に答える。答えにくい質問には、顔を伏せて考え込む。真摯(しんし)な対応だった。

 亀田

 プロになって9年目。ボクシングは12歳から始めてるから、14年やっているけどあっという間。次で30戦目。プロで10年もやってたら、そろそろやめなあかん。でも、背負うもんも増えたし、やらなあかんと思うてる。自分との戦いや。自分に勝つのが一番難しい。

 背負うもの-。それは今年になって一気に大きくなった。世界チャンピオンであると同時に亀田プロモーションの社長。5月に美香夫人と結婚し、9月には長男(名前は非公開)も生まれた。ブログでは、長男の成長を頻繁につづる親ばかぶりも見せている。

 亀田

 かわいいな。もうすぐ3カ月で、首も据わって、笑うようになった。親になるのは難しいし、大きいこと。責任重大や。つらいことも多いけど、オレはプラス思考やから。ただ子どもや嫁さんは、いいときも悪いときも知っている存在やから、励みになるね。子どもが生まれて初めての試合やから、絶対に勝たなあかんというプレッシャーに変えんといかん。

 日本人初の3階級制覇など、大きな実績を残してきた半面、微妙な判定による勝利や、格下挑戦者とのマッチメークなどで批判にもさらされてきた。昨年、25歳の誕生日に亀田は、将来の目標を口にした。27歳までに4階級制覇、30歳までに5階級制覇-。

 亀田

 目標は昨年と変わってないよ。まず、12・4に勝つこと。そうしたら、まず4つ(4階級)取りたい。来年、いきたいなと思う。

 強気の言葉を吐いた後、じっと考え込み、揺れる胸の内をぽつり、ぽつりと語り出した。

 亀田

 オレ自身の気持ちがどこまで続くかやな。今はまだ、もう少し続けれる気持ちになっている。気持ちが切れたときが、やめるとき。もしかしたら、12・4の試合のその日にやめるかもしれんし、まだまだやるかもしれん。気がついたら35歳までやっとるかもしれんしな。

 強気と弱気。ボクサーは誰もが心の中で戦っている。そんな内面を亀田は、淡々と明かした。それは、26歳というプロスポーツ選手としては脂ののった時期ではあるが、10年、30試合目という節目を迎えた男の率直な気持ちだろう。

 亀田

 自分を勝利に駆り立ててくれるのは、家族の存在であったり、会社を背負っているいう気持ちだけやない。応援してくれる人たちが、試合に勝って喜んでる、みんなの喜ぶ顔なんや。スポンサーも増えて会社も形になってきた。オレが勝つことも大事やけど、大毅や和毅も勝って、それで興行がひとつ成り立つ。

 インタビューの中で世界王者、父親、社長、3兄弟の長兄といくつもの顔を見せた。リングの上に立てば、未来は自分の拳で切り開くしかない。12・4。注目のリングで亀田はどんな答えを出すのか。【聞き手、構成=桝田朗】

 ◆亀田興毅(かめだ・こうき)1986年(昭61)11月17日、大阪市生まれ。03年12月にプロデビュー、05年8月に東洋太平洋フライ級王座獲得。06年8月にWBA世界ライトフライ級王座を獲得し、同12月に初防衛。07年1月に同王座を返上してフライ級転向。09年11月に内藤を下し2階級制覇。10年12月のWBA世界バンタム級王座決定戦でムニョスを倒し、日本人初の3階級制覇を達成した。同王座を4度防衛中。166・5センチの左ボクサーファイター。家族は、美香夫人と1男。