勇気ある決断で横綱の“口撃”を、うっちゃった。場所前の力士会で横綱白鵬から、気合入れの発声禁止令を下された東西の前頭12枚目、千代鳳(22=九重)と琴勇輝(23=佐渡ケ嶽)が対戦。撤退を表明し「ホッ」を自粛した千代鳳に対し、琴勇輝は「ホゥッ」と発声して館内を沸かせた。押し出しで敗れた琴勇輝だが、番外戦では信念を貫いた。

 横綱の言葉より、重いものがある。信念を捨てるぐらいならマゲを落としてもいい。それぐらいの覚悟が「ありました」と琴勇輝は胸を張って言った。土俵では土が付いた。それでも、やりきった充実感が173キロの体を包んだ。

 しこ名を呼び上げられ両者が土俵に上がる。いやが上にも好奇の目が注がれる。そんな時だ。「声を出したっていいんだゾっ!」。男性ファンの声につられ「そうだ」のエールも飛ぶ。花道を入場する際、琴勇輝は「ホーホー、ホーホー言われた」と異様な空気を察した。そんな中、最後の仕切り。普段より大きな張り上げるような「ホゥッ」という気合の声。館内が拍手と大歓声で揺れた。攻め込まれ何とか回り込むも、押し出されて完敗。痛いほどの拍手が、花道を引き揚げる琴勇輝に送られた。

 勇気ある決断で臨んだその琴勇輝に、相撲で勝った千代鳳が羨望(せんぼう)のまなざしを送る。「琴勇輝関は男前です。オレは怖くてできない。申し訳ない。かっこいいな、琴勇輝さんは…」。決して横綱の言葉で封印したわけでない。かねて師匠の九重親方(元横綱千代の富士)から注意されていたことを、これを機に断念。自主判断に任され己を貫いた琴勇輝が、千代鳳にはまぶしかった。

 三段目時代から気合を入れる動作として身につけ、それがルーティンに。ファンの大歓声は、数年たって後から付いてきたものだ。だから琴勇輝は、力士会後に話した言葉をこの日も繰り返した。「意識的な受け狙いのパフォーマンスでなく自分の中のリズム、あくまでも気合。そこだけは分かってほしい」。問題発覚直後から、2人には一門を超えた関取衆らから「続けてもいいのでは」という賛同の声が寄せられた。その声は果たして、大横綱の耳にどう届くのか-。【渡辺佳彦】

 ◆2月24日の力士会VTR 約5分間の会議の終了間際、白鵬が突然口火を切り「千代鳳!」と指名。名前を忘れてしまったのか「あともう1人」と隣の琴勇輝も指そうとしたところ、反対側の隣にいた千代丸が反応し「千代丸です」。すると白鵬は「違う、お前じゃない」と言い、琴勇輝が名乗ると「せき払い、やめろ! 犬じゃないんだから、ほえるな」と“物言い”をつけた。