西十両11枚目の若の里(29=田子ノ浦)は、深々と、土俵に向かって礼をした。それは5秒間も続いた。「24年分の礼です」。目をつぶると温かな拍手が耳に入った。若の里の目と鼻が赤くなった。「込み上げてくるものがありました。花道を下がるとき、涙がこぼれてしまった」。

 天鎧鵬に寄り切られて11敗。新十両の97年九州場所から17年半も務めた関取の座から、陥落することは決定的となった。支度部屋では「今は気持ちの整理がつかない」と明言は避けた。ただ、こうも言った。「本音はまだまだ現役で相撲を取っていたい。でも、現実として幕下に落ちる。悔しいですけど、最後は現実を受け入れることになると思います」。近く、現役引退を発表する意向を示した。

 限界に近かった両膝。週に1度は水を抜いていた。通常は10ccの中で、片膝100cc以上になった。15日間をもたせる強烈な痛み止めも打っていた。だが、最後まで取り切った。「なんか、肩の荷が下りました」と穏やかな顔になった。

 帰ろうと立ち上がる際、人の手を借りた今までと違い、1人で立った。最後は自分の足で。進退を明言しなかったことを「往生際が悪いですね」と苦笑いしたが、帰り際に残した最後の言葉。「風呂場で全部、涙は流してきました。やりきりました」。【今村健人】