大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が、悲願の初優勝へ1歩前進した。横綱鶴竜(30)を破って10連勝。もろ差しを許したが、執念を見せて逆転の小手投げを決めた。今日11日目は、1敗の横綱白鵬との大一番を迎える。

 満員札止めの館内のどよめきが、うねりのように響いた。劣勢から勝利を決めた稀勢の里は、いつも通り「う~ん…まあ、良かったですね」と言葉少なに振り返った。涼しい顔とは相反して、左頬には赤い擦り傷。命運をにぎる最初の横綱戦を制した勲章だった。

 絶体絶命の窮地を、執念で乗り切った。立ち合いは迷いなく、頭からぶつかる。だが鶴竜のしつこいのど輪攻めに上体が起きるともろ差しを許し、一気に追い詰められた。とっさに左小手投げを打って回避するも、鶴竜は手を休めない。だが、ここからだった。「思い切りいきました。体が動いてくれましたね」。左足を俵にかけて残すと、左に動きながら右腕に力をこめる。2度目の小手投げで体を入れ替え、勢いあまって倒れ込んだ。稽古相手で弟弟子の高安にも「あの残り腰はすごい」と言わしめる、土俵際からの大逆転劇。正攻法の力勝負で、横綱をねじ伏せた。

 9勝に終わった初場所後、師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)と膝を突き合わせた。確認したのは、先代師匠の故鳴戸親方(元横綱隆の里)の言葉。田子ノ浦親方は、この日の取組前にも、こう指摘した。「もともとは押し相撲。先代も『あいつの一番の魅力は、当たってから、その勢いで行くこと』と言っていた。今日、しっかり自分の形で勝つことが大事」。

 9日目の琴奨菊戦ではその立ち合い直後に信念を曲げて右に動いたが、あくまで冷静な判断の結果。土壇場で、再び信念を貫いた。

 今日11日目はいよいよ、白鵬に挑む。過去54度(3位タイ)の幕内での対戦では、あと1歩のところで何度もはね返されてきた因縁の相手だ。悲願の初優勝へ、超えなければならない存在であることは、誰よりも分かっている。「思い切って、ね」。真価が問われる大一番。殻を破れるか。【桑原亮】

<因縁あり!!>

 ◆連勝阻止 10年九州場所2日目、歴代2位の63連勝中だった白鵬を、当時東前頭筆頭の稀勢の里が寄り切り。13年名古屋場所14日目には、歴代5位43連勝中だった白鵬を、またも稀勢の里が寄り倒しで破った。

 ◆初優勝阻止 13年夏場所14日目、初優勝を狙う稀勢の里と白鵬が全勝で対決。激しい攻防の末に、白鵬がすくい投げで下し、稀勢の里の夢を打ち砕く。

 ◆万歳三唱 13年九州場所14日目、稀勢の里が全勝の白鵬を上手投げで破ると、観客が万歳三唱。

 ◆審判部批判 15年初場所13日目、白鵬は取り直しの末に稀勢の里を押し倒し史上最多33度目の優勝を決めた。だが、千秋楽翌日の会見で、取り直しとなった一番について「子供が見ても分かる」と審判部を痛烈批判。物議を醸した。