豪栄道(30=境川)が、大関13場所目の初優勝へ“王手”をかけた。横綱鶴竜(31)を押し出し、無傷12連勝で単独首位をキープ。今日13日目に直接対決する2敗の横綱日馬富士に勝ち、同じく2敗の関脇高安と平幕遠藤が敗れれば、1930年(昭5)夏場所の山錦以来となる、大阪出身力士86年ぶりの優勝が決まる。

 紅潮した顔で、豪栄道が小鼻を膨らませた。鶴竜の強烈な張り手にも、はたきにも屈しなかった。「我慢できました」。猛攻をしのぎ、前へ出て押し出した。「気持ちの集中が、できていたと思います」。初日から白星を12個並べて、いよいよ初優勝に近づいた。

 先場所までとは、別人のような快進撃だ。14年秋の大関昇進後は、左膝半月板損傷などのケガに悩まされ、負け越し4度、2桁勝利は1度だけ。先場所まで大関12場所の成績は93勝86敗で、勝率5割2分と低迷した。過去、大関初優勝を飾った力士で直前場所までの勝率ワーストは、89年九州の小錦で5割5分。このまま豪栄道が賜杯を手にすれば、大関史上最大の「V字回復初優勝」になる。

 大関昇進前と比べても「今の方が、冷静に取れている」と言う。その理由を問われても豪栄道は「よく分からない」と首をひねるが、故障続きの体をいたわり、立て直す努力は惜しまなかった。今場所前には、遠く福岡市から足つぼマッサージ師を招いた。担当のおかざきたけし氏(39=ニルバーナ代表)のツボ押しは、一般人なら痛くてもだえるほどだが、大関は2時間もじっと我慢。同氏は「最近では一番いい状態」と足裏で好調を確信していた。

 大阪勢86年ぶりの優勝も、すぐそこだ。部屋では祝いのタイと酒樽を発注済み。福岡にいる師匠の境川九州場所担当部長(元小結両国)も明日24日の帰京予定を早める可能性がある。この日は母沢井真弓さん(60)が上京。知人に砂かぶり席を譲ってもらい、間近で勝利を見届けた。「足が太くなった気がする。頑張ってほしいです」と願った。

 今日にも優勝の瞬間が訪れる豪栄道は「意識せず、気合入れて集中するだけです」と言った。かど番Vへ、急上昇する注目度も「やりがいあるんじゃないですか」。迷いなく日馬富士に立ち向かう。【木村有三】

 ◆12日目を終え後続に2差の単独トップ 最近では昨年春場所の全勝で横綱白鵬、2敗で関脇照ノ富士の例がある。14勝1敗で白鵬が千秋楽逃げ切りV。00年以降、白鵬10回、朝青龍5回、琴欧洲2回、日馬富士と琴光喜と貴闘力各1回の20例があり、優勝をさらわれたのは05年秋場所の1例だけ。12連勝の関脇琴欧州(のち琴欧洲)が千秋楽で朝青龍に13勝2敗で追いつかれ優勝決定戦で屈した。また19例中、千秋楽を待たずしての優勝は17例ある。