だが、ここからが稽古を重ねてきた新横綱の強さだった。下がりながらあらがうと、体を開いて左の小手で振る。その反動を使い、まるで右フックで松鳳山の左ほおを殴るように突きながら、小手もひねった。15年春9日目の旭天鵬以来の自身初「小手ひねり」。「そんな決まり手あるの? 初めて聞いた」と驚くほど無我夢中の逆転劇だった。

 この日のNHK大相撲中継のゲストはボクシング元世界3階級王者の長谷川穂積氏。失敗した11度目の防衛戦を生で応援し、王者に返り咲いて引退した姿に「魂を感じた」人だった。その前で見せた“右フック”で自身7度目の全勝ターン。長谷川氏は「チャンピオンとして重圧もあるでしょうし、相手も一泡も二泡も吹かせようとする。その中で戦い続けるプライドを感じました」と絶賛した。

 弟弟子の高安と同部屋2人だけの全勝ターンは43年ぶり。だが「(高安を)意識しても。また明日しっかり」。最後は涼しい顔で、後半戦に向かった。【今村健人】

 ◆同部屋力士の中日全勝並走 1場所15日制が定着した49年夏場所以降10例目で、稀勢の里、高安コンビは12年秋以来2度目。ただし、同部屋力士2人だけで並走するのは60年夏の初代若乃花と若秩父、74年夏の北の湖と増位山の2例しかなく、今回は43年ぶり3例目。最初の若乃花は9連勝、若秩父は10連勝でストップして結局、若三杉(大豪)が14勝1敗で優勝した。前回の北の湖と増位山は9日目でそろって黒星を喫し、14日目に北の湖(13勝2敗)が優勝を決めた。15日制が定着する前では41年春の立浪部屋時代の双葉山と羽黒山(11連勝)がいる。