横綱稀勢の里を破った小結嘉風(35=尾車)は興奮気味だった。開口一番「100点でしょ」と口にし、途中で「この内容で、なんて言ったら横綱に失礼。150点ですから」と自己採点を上積みした。

 8日の二所ノ関一門の連合稽古で、稀勢の里と1番だけ取り、右の突き落としを食らって左ふくらはぎを痛めた。「あの後、四股を踏んでない」という患部は「正直良くはないけど、相撲を取れるところまでは(治療で)回復させてもらったわけだから」。万全の状態ではなかった。

 春場所で左上腕部などを痛めた稀勢の里に対し、この日は「勝手な仮説」を立てた。「左手が使えないとして、右手を使ってくる。こっちは両手が使えるから…」と説明。頭から当たった後、粘っこい右のはず押しで圧力をかけ続けて、押し出した。

 「右の突き落としだけはイヤだった。それを食わなかったのはタイミングでしょう。いつも若い衆に『土俵際で頭を下げるな』と言ってるんです。なんでか? 突き落としを食うから。きょうはそれが正しいことが見せられましたね」

 実は昨年、全力士の中で“最も懸賞を逃した男”だ。手にできなかったのは実に413本、手取りで1239万円もあり、昨年末の日刊スポーツ大相撲大賞の「授業料払ったで賞」に輝いて(?)いる。ところが、この日は1番で54本、手取り162万円を手にした。「そういうのが頭をよぎる中で、自分の相撲が取れた。精神的にすごく充実しているから、と思う」。地元・大分県佐伯市の在京県人会の面々が応援にかけつけていたが、土俵下で「何か聞いたことのある声」を耳にするまで、忘れていた。それほど集中していた。2日目は横綱白鵬と対戦。勢いに乗って、横綱連破に挑む。