横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)が初金星を配給した。西前頭筆頭の遠藤が足を滑らせたところではたきに動き、まともに呼び込んで押し出された。平幕力士11人目で初めて金星を与え、早くも2敗目。37年夏場所の双葉山以来80年ぶりの初優勝からの3連覇が険しくなった。遠藤は自身3個目の金星。

 横綱昇進から11人目にして、とうとう平幕力士に負けた。初めて許した金星とあまりに悔しい内容に、支度部屋では生返事と無言だけ。稀勢の里は今場所初めて、言葉を発しなかった。

 つい、体が反応してしまった。突き押しの応酬の中、右手で強烈な張り手を見舞った。すると、下がった右足が仕切り線で滑ったのか、遠藤の体がガクッと落ちた。一瞬の間が生まれた。反応がわずかに遅れた。

 八角理事長(元横綱北勝海)は「『アレ?』って感じだろう。頭が下にいっちゃったから、つい押さえにいったんじゃないか」。思わず出てしまった引き技。だが、遠藤は既に体勢を戻していた。まともに呼び込み、一方的に押し出された。理事長は「『何やってんだ、オレは』という感じだろう。負けた気がしないんじゃないのか」と察した。

 鬼門なのか「横綱2場所目の4日目」は昭和以降、先代師匠の隆の里ら4人も初金星を配給していた。5人目の屈辱。平幕力士11人目で初めて与えた金星は苦い。ただ、日馬富士は「横綱だって人間ですから。(配給の少ない)白鵬関らと比べちゃうけど…」。横綱誰もが通る道だと話した。

 朝、新しい反物が部屋に届いていた。しこ名に、横綱だけが許される「綱」の絵柄が染め抜かれていた。「『綱』は横綱にならないと入れられない。一番(綱の)白に合う」と選んだ紺色の品は、周囲に配る物。先代師匠は言っていた。「自分のしこ名が入った浴衣を自分で着るのは粋じゃない。人に着てもらってこそ意味がある」。痛い2敗目だが、大勢に喜んで着てもらうためにも、止まってはいられない。【今村健人】