自らの目で見てきた数多くの景色。それが今の高安を彩っている。初めての大関とりだった昨年九州場所は7勝8敗と失敗した。それでも「入門した当時の自分から考えたら、大関に挑戦していることが考えられない。夢の中にいた感じがする。またいい景色が見れた」。気持ち新たに挑んだ翌場所から11勝、12勝。その間、稀勢の里の優勝パレードでは旗手を務めた。車から見えた景色もまた、いいものだった。「優勝っていい。稀勢の里関になりたいと思った」。目の前にある横綱の背中を追った。

 今場所前はその横綱のけがでいつもの三番稽古ができず、連日出稽古になった。だが「いろんな力士と肌を合わせられるので、これも良い機会だと思った」。稀勢の里が出稽古し始めると、必ずついていったこれまでと異なり、あえて違う部屋に出向いた。「自分でたくさん稽古したかった」。独り立ち。横綱がいない景色の中で、力を蓄えた。

 初日からの5連勝は7度目。過去6度はいずれも2桁を挙げた。昇進目安となる33勝は今場所10勝で届く。「大関」の景色はすぐそこに迫ってきた。だが、今の高安が見るのは星数でなく、全勝での優勝。3人だけの勝ちっ放しに「持てる力をしっかり出して、前向きな相撲を取りたい」。太刀持ちを務める稀勢の里の土俵入りで、北斗の拳の主人公ケンシロウの化粧まわしを着ける。ケンシロウは兄ラオウを超えた。高安も、その景色を追い求める。【今村健人】