横綱白鵬(32=宮城野)が、横綱初挑戦の平幕宇良を右すくい投げで下し、千代の富士の持つ歴代2位の通算1045勝に王手をかけた。自己最多を更新する43度目の中日8日目での勝ち越しを果たし、全勝で並んでいた平幕碧山が負けたため、単独トップに立った。

 支度部屋に戻った白鵬は、記者の質問に満面に笑みを浮かべて答えた。「宇良を裏返したね」。観客が固唾(かたず)をのんで、見守った一番。土俵上で2人が動き回るたびに、歓声が湧き上がった。「やる方は大変ですよ」と話しながらも笑みを浮かべる姿には、気持ちの余裕が見えた。

 立ち合いは「どっちかにズレようかと思った」と右手を出して、左に動いた。一瞬、両足を取られかけたが、持ち前のバランス力でいなし、体勢を崩したのを見逃さずに右を差す。土俵際でこらえられたが、強引なすくい投げで背中から落とした。「ああいうタイプは初めて。お客さんも満足したと思う」。自画自賛の一番で、2場所連続の中日勝ち越しを決めた。

 2カ月半ぶりに土俵上で相まみえた。4月22日の春巡業・東京八王子場所。ぶつかり稽古の相手に指名したのは、春場所で新入幕昇進した宇良だった。約5分間、胸を出したが「勢いがなかった。一生懸命やった感じはあるけど」と物足りなさを感じた。しかしこの日は「柔らかさがあった。いいものがあった」と、短期間での成長に感心した。

 この日の朝稽古で、戦闘態勢は整っていた。立ち合いの確認の相手に、小兵の石浦を指名。小さい相手にぶつかった時の感触を確かめた。見学に来ていた、親交のあるトヨタ自動車の豊田章男社長は「相撲以外の話をした時にリラックスしていたけど、体は緊張していた」と伝わるものがあったという。体と心の準備は万全だった。

 01年春場所の初土俵から積み上げた白星は1044個。歴代2位の千代の富士まで、あと1つに迫り「一番一番」と右手人さし指を立て「1」のポーズを作り意識した。歴代1位の魁皇の1047勝も手に届くところまできた。だが、まずは先輩横綱の横顔をのぞき込む。【佐々木隆史】

 八角理事長(元横綱北勝海)の話 白鵬は右を差し左を抱えながら起こして宇良の動きを止めた。押し込んでるから余裕もある。うまく取った。負けない安定感があり気持ちの乱れもなく平常心でやっている。後半戦の盛り上がりには日馬富士、高安の頑張りが必要。