角界に衝撃が走った。大相撲の横綱日馬富士(33=伊勢ケ浜)が、10月の秋巡業中に行われた酒席で、東前頭8枚目の貴ノ岩(27=貴乃花)に暴行を加えていたことが14日、分かった。問題発覚後、左腕のけがを理由に休場した。貴ノ岩の師匠、貴乃花親方(元横綱)は、暴行が起きた現場を管轄する鳥取県警に被害届を提出。県警は今後、日馬富士や関係者から事情を聴くとみられる。複数の関係者によると酒席には白鵬、鶴竜の両横綱が同席していたことも判明した。

 

 日馬富士による貴ノ岩への暴行は、10月25日夜から26日未明にかけて、巡業を控えた鳥取市内で起きた。酔った日馬富士が話している途中、スマートフォンを取り出し、一瞬チラリと見る貴ノ岩のしぐさに怒りを爆発させたという。ビール瓶や灰皿、カラオケ機器、マイク、素手でも貴ノ岩の頭部などを何度も殴った。隣の部屋にいた、ある力士の付け人は「ガラスが割れる音がして慌てて見に行ったら(貴ノ岩が)血だらけで倒れていた」と証言。また複数の関係者が白鵬、鶴竜、照ノ富士らがその場に同席していたと明かした。

 頭頂部に近い位置はパックリと割れており、医療用ホチキスで傷口をふさいでいるという。貴ノ岩は今場所は初日から休場。他の休場力士よりも3日遅く公表された診断書には、全治2週間程度ながら「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」と、物々しい診断名が記されていた。

 そんな状況を知り、貴乃花親方は、10月29日の広島・福山市での巡業後、鳥取県警に被害届を提出した。暴行が明らかになったこの日、報道陣の取材に応じた春日野広報部長(元関脇栃乃和歌)は「貴乃花理事は『被害届を取り下げるつもりは、今のところない』と話している」と明かした。

 日馬富士も伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)も、暴行の事実を認めている。この日の朝稽古後には「大変迷惑をかけたことを深くおわび申し上げます」と頭を下げた。今場所初日の前日となった11日に臨時理事会が開かれ、伊勢ケ浜親方は面と向かって、貴乃花親方に謝罪。この日も会場の役員室で、2人同席で日本相撲協会執行部が面談。その場でも謝罪したという。一方で、この日昼に伊勢ケ浜親方は日馬富士を引き連れ、車で1時間以上離れた福岡・田川市の貴乃花部屋を訪れたが、謝罪は拒否された格好。2人が到着したと同時に、貴乃花親方は移動の車に乗り込んでいた。伊勢ケ浜親方に「もう行っちゃうの?」とたずねられたが、手を上げただけですれ違った。

 貴ノ岩は暴行を受けて以降も巡業に参加し、稽古や取組を行っていたが、貴乃花部屋の若い衆は「無理に明るく努めていただけかもしれない。今日(14日)は稽古を休み、いくら起こしても起きなかった」と明かした。満身創痍(そうい)の弟子に代わり、貴乃花親方は全容解明を目指している。日本相撲協会は今後、危機管理委員会を中心に当事者らからも話を聞き、日馬富士の処分を決める。