大相撲の横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、234日ぶりに本場所の土俵に立つ。6日、千葉・習志野市の阿武松部屋に出稽古後、秋場所(9日初日、東京・両国国技館)へ出場の意向を表明。その後、師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)と話し合い、出場が決まった。年6場所制となった1958年(昭33)以降の横綱では、貴乃花の7場所を抜いて歴代最長の8場所連続休場中。復活で、不名誉な記録に終止符を打つ。

覚悟を決めた稀勢の里の表情は晴れやかだった。出稽古で訪れた阿武松部屋での、最後のぶつかり稽古。阿武咲、隆の勝の幕内2人に立て続けに胸を出し「さあ来い!」「どうした!」などと何度も大声で若手を鼓舞した。砂まみれの相手を計7分間も受け止め続け、自身の体も砂で汚れたが笑顔。心地よかった。稽古後は「やるべきことは、やってきた。しっかり準備ができたので」と、秋場所出場の意向を示した。

1月18日の初場所5日目で前頭嘉風に敗れて以降、すべて全休した。最後に皆勤した昨年3月の春場所で左大胸筋を痛め、生命線の左に力が伝わらなかった。本場所での対戦が予想される上位陣との稽古を避けてきたが、今場所は違った。夏巡業から上位陣を稽古に指名した。この1カ月で横綱鶴竜をはじめ、3大関全員、関脇御嶽海、小結玉鷲らと胸を合わせてきた。その稽古は「良かったり悪かったりというのが、逆に良かったと思う。1日1日が濃かった」という。悔しい日もあったからこそ課題を見つけ、成長につなげた。

この日は「一番いい稽古ができたから」と2日に続き、伸び盛りの阿武咲を稽古相手に選んだ。10勝4敗と大きく勝ち越したが、従来とは違い、右で前まわしを引きつける取組が目立った。激しく突いてくる阿武咲の動きを、右でおさえてから左を差して万全の寄り切り。見守った審判部長の阿武松親方(元関脇益荒雄)は「今までにない相撲。素晴らしい武器になる」と、以前の状態に戻すどころか進化していると指摘。師匠の田子ノ浦親方も、8場所連続休場中のこれまでと比べて「一番いい」と話す。

7月、名古屋場所休場を表明した際に「来場所、すべてをかけて頑張っていきたい」と、進退を懸ける覚悟を重い口調で語った。だがこの日は「しっかり鍛えてきた。本場所と稽古場は違うので、しっかりと集中して臨みたい」。復活を信じ、自信に満ちた表情が戻っていた。【高田文太】