8場所連続休場から復活を目指す横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、連日の大逆転で3連勝を飾った。初顔合わせとなった24歳の新鋭、東前頭2枚目の豊山に土俵際まで押し込まれながらも、最後は突き落とした。現役力士で最も勝率の高い、初顔合わせの強さは健在。加えて「逆転の稀勢の里」ともいえる、土俵際の強さ、執念が、進退を懸ける場所で際立っている。

今場所初めて結びの一番に登場した稀勢の里は、観衆を興奮のるつぼにのみ込んだ。1度目が合わず、2度目の立ち合い。豊山の突き放しに後退したが、下からはね上げて防ぐと、じりじりと前に出た。一瞬の隙を逃さず距離を詰め、胸を合わせて左をねじ込んだ。さらに右上手も取る必勝パターン。だが詰めが甘かった。左右ともに振りほどかれ、逆に土俵際に追い込まれた。左足は俵にかかった状態でのけぞり万事休す。そこから大逆転の突き落とし。物言いの末、稀勢の里に軍配が上がると、地鳴りのような大歓声が起きた。

執念で白星をもぎ取った千両役者は、ただ1人冷静だった。支度部屋では攻め続けた姿勢を問われ「それがよかったんじゃないですか」と淡々と話した。豊山とは夏巡業中の朝稽古で2度指名して計20勝2敗。それでも「立ち合いしっかり集中して、あとはしっかりやるという気持ちで」と、初日、2日目と同様に引き締めて臨んだと明かした。

実は最近10年間の初顔合わせは40勝3敗、9割3分という圧倒的な強さを誇っている。入門当初から故人の先代鳴戸親方(元横綱隆の里)に、ビデオで対戦相手を徹底研究するよう指導されてきた。その姿勢が現在まで生きている。最近10年の初顔合わせの勝率は白鵬の9割1分3厘(42勝4敗)、鶴竜の8割5厘(33勝8敗)と、他2人の横綱を上回り、現役トップだ。

地道な努力の積み重ねに加え、まだ若手に道を譲れない第一人者の意地が3連勝を導いた。「また明日、集中してやりたいと思います」。「逆転の稀勢の里」を生み出す集中力を養うため、すでに次の取組を見据えていた。【高田文太】