8場所連続休場から復活を目指す横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、初黒星を喫した。西前頭2枚目の千代大龍に押し出され、初日からの連勝は「5」でストップ。3横綱の中で最初に土がついた。三役以上とは7人も対戦を残す中、平幕相手に痛恨の取りこぼし。横綱審議委員会(横審)から、前日5日目終了時点での合格点を与えられた直後に、力ない黒星を喫した。

今場所2度目の結びの一番で、稀勢の里に降り注いだのは、歓声ではなく座布団だった。相手は立ち合いの圧力に定評のある千代大龍。警戒したのか、踏み込みも出足も鋭さを欠いた。生命線の左を差せないまま前に出ると、いなされ、横向きで土俵際に追い込まれた。土俵下まで目いっぱい押し出され、最後は観客の間で手をついた。今場所最短3秒2で金星配給。悲鳴を大歓声に変えてきた、5日目までの「逆転の稀勢の里」の姿はなく、最後まで悲鳴だけが響き渡った。

少しずつ歯車が狂った。幕下の取組が長引き、幕内土俵入りは予定よりも25分遅れ。2番前の白鵬の取組でも物言いがつき、通常、午後6時にはすべての取組が終わる中、最後の仕切りは午後6時3分。一瞬に最高の力を出すため、午後6時前に合わせて準備運動を進めるだけに、わずかな狂いが命取りとなった。

たかが1敗だが、残り9番のうち、7番は三役以上の実力者との対戦が控えている。これに1番も勝てなければ負け越すだけに、取組後の稀勢の里は「明日は明日で。うーん。また、やっていきたいですね」とだけ話した。口数は今場所最も少なくなり、すでに千代大龍と同じ九重部屋の千代の国戦を見据えた。

入門間もない時期から約2年半、付け人を務めた兄弟子の西岩親方(元関脇若の里)の言葉を励みにしてきた。同親方は7月末から約1カ月間の夏巡業に審判部の一員として同行。朝稽古中やホテル滞在中など、ことあるごとに声を掛けられた。同親方は「相撲の話ではなく、たわいもない話が多い」と詳細は明かさない。だが「まだまだ復活できるから」と話したことがあった。苦楽を共にした尊敬する兄弟子の言葉で、長く抱いていた肉体の不安は消えた。だからこそ今場所で繰り返す「集中」が明暗を分けると理解。横審から5日目に太鼓判を押された直後の黒星で見せた険しい表情に、再出発の決意をにじませた。【高田文太】