大関高安(28=田子ノ浦)が快勝し、横綱不在の中、大関、関脇で唯一の2敗を守った。東前頭4枚目の正代を、わずか3秒2で押し出した。1分58秒3もの大相撲の末に敗れた、前日7日目の竜電戦から一変。勢いに乗り、2日ぶりに単独トップに立った小結貴景勝を1差で追う。5日目から休場した兄弟子の横綱稀勢の里の分まで、今場所の盛り上がりと優勝争いを担う格好だ。

快勝という言葉では足りないほどの快勝だった。高安は立ち合いから一気に前に出た。回転の速い突っ張りで正代に何もさせず、わずか3秒2で押し出した。得意は左四つと突き、押しだが、前日は苦しい形の左四つで敗れた。ならばとばかりに、もう一方の得意で圧倒。「前に出ようと思って、もたもたせず思い切ってやりました」と納得顔。「自分の相撲を思い出したか」と問われると「思い出しました」と胸を張った。

兄弟子の稀勢の里が5日目から休場し、初日から休場の白鵬、鶴竜と合わせて横綱が全員不在となった。他の大関、関脇陣も6日目までに3敗。部屋の中でも今場所の優勝争いでも、中心となって盛り上げる役割が求められている。前日7日目の朝稽古後に、その自覚を問われると「もちろん。お客さんにしっかりと元気な相撲を見せたい。精いっぱい取り切りたい」ときっぱり。1勝もできずに休場しファンに謝罪した、兄弟子の無念も背負う覚悟だ。

前日、竜電に敗れた後は無言で、この日の朝稽古も姿を見せなかった。2分近い前日の取組は、初顔合わせの相手に終始苦しい体勢だったが、心中を明かさずこの日の土俵に立った。かつて高安は「負けた時に話すと、全部言い訳になってしまうから」と、敗れた後に無言のことが多い理由を話したことがあった。言いたいことがあっても、翌日の土俵で示す-。その覚悟が、今年の連敗はわずか5度と、休場の多い3横綱を除けば栃ノ心と並ぶ、幕内最少の数字に表れている。

この日は「優勝」というフレーズの入った質問には答えず「明日からも気を抜かずにやりたい」。初優勝への思いは、静かに胸に秘めている。【高田文太】