前頭13枚目阿武咲(22=阿武松)が前頭14枚目千代翔馬(27=九重)を寄り切って2場所ぶりの勝ち越しを決めた。大関高安ら3人とともに2敗を守り、1敗で単独トップに立つ同い年でライバル視する小結貴景勝(千賀ノ浦)を1差で追う。昨年の九州場所で新小結に昇進したものの、右膝のけがで今年の夏場所では十両まで番付を落とした若武者に、力強い突き押しが戻ってきた。

四つになっても阿武咲の勢いは止まらなかった。千代翔馬に左を差されても、左を深く差して動きを止めず前に出た。「立ち合いで左を差されたのは良くなかったけど落ちついていた」。2敗を死守した一番を淡々と振り返った。

ケガと大敗を経験して原点回帰した。新入幕から3場所連続2ケタ勝利で昨年九州場所では21歳で新小結に昇進。ところが今年の初場所9日目に、右膝後十字靱帯(じんたい)を損傷して休場。十両に陥落した夏場所で優勝し、前頭11枚目まで番付を上げた名古屋場所では再び2ケタ10勝を挙げたが、復活を喜ぶ気分とはほど遠かった。「幕内に戻って勝ち越しても、はたきも多くごまかしていた」。案の定、先場所は11敗と大負け。今場所は原点の押し相撲で、前に出続けている。

「押して勝てているのは良くなっている証拠」。前日9日目までの白星は全て押し出しと、決まり手にも意識の変化が表れている。

土俵下で審判長を務めた師匠の阿武松親方(元関脇益荒雄)は「準備運動、稽古場での心構え、治療。プロ意識が芽生えてきた」と、弟子の精神的な成長に目を細める。右膝に古傷を抱えながら、左右で同じ太さのサポーターを巻くのは、動きの感覚を変えないため。「立ち合いの時にもミリ単位で変わってくる」と細部にこだわる。

ライバルの存在も大きい。1敗で単独トップに立つ貴景勝は、同い年で仲良し。「幸せです。良い刺激をもらっているので自分も負けられない。場所中はないが、普段から若手で盛り上げようという意識はある」。3横綱不在の今場所。世代交代の波を巻き起こす。【佐藤礼征】