付け人に暴力を振るった平幕の貴ノ岩(28=千賀ノ浦)が7日、責任を取って現役を引退した。師匠の千賀ノ浦親方(元小結隆三杉)と都内の日本相撲協会を訪れ、八角理事長(元横綱北勝海)らに引退の意思を伝えて受理された。

<記者の目>

暴力=引退。この公式が今後も成立してしまうことには、賛成とは言い切れない。相撲協会は10月に、暴力決別宣言と暴力問題再発防止策の方針を発表。八角理事長(元横綱北勝海)が会見し、暴力根絶への強い姿勢を示した。暴力を振るった者には厳罰を科すと表明した。それから1カ月半で、発表後、最初に暴力が判明したのが今回の貴ノ岩だった。今後の「厳罰」の指標となる事例だったが、自ら引退の道を選んだ。

暴力に対して厳しく取り締まるのは、非常に良い姿勢と感じる。その第1号の処分が決まる前に、加害者が引退を決断したことで、暴力を振るった協会員、特に幕内格なら引退しなければいけない風潮ができる。ある協会員は「何をしても殴られないとなれば、付け人が増長して秩序が乱れる可能性がある」と話す。良くも悪くも、体一つで成り上がることができる世界。腕力がものを言う世界でもあり、暴力で上下関係を形成してきた過去もある。

そんな風習から脱却する1つの方策として稽古と生活を分ける、相撲部屋という制度を、見直す時期に差し掛かっているのではないかと、前日7日付日刊スポーツ紙面で記者は書いた。同日、ある親方から「相撲そのものが崩壊する」と指摘された。

現在は部屋別総当たり制で、同部屋の力士同士は対戦しない。だが、その親方は「個人総当たり制になれば全員が敵になる。敵に自分の技術を教えることも、強くさせよう、育てようとすることもなくなる。親方衆も誰に教えていいか分からない」と続けた。相撲部屋という文化は、親子や兄弟のような絆を生み、それが魅力であると同時に、技術の継承もなされ、競技力の発展につながっていた。暴力という側面だけでとらえれば、稽古と生活を切り離すのも1つの手段かもしれない。だが伝統に裏付けられ、発展してきた競技レベルまで下げる可能性もある。貴ノ岩の引退は、相撲界にとって、どこが譲れないものなのか、どの伝統を守り続ける覚悟なのかを迫る、難題を突きつけるものでもあった。【高田文太】