稀勢の里は現役力士でいる間、テレビCMやバラエティー番組にほとんど出演しなかった。なぜ素顔を見せないのか? 6年前の3月、こう打ち明けてくれた。

「俺は勝って喜ばれたい。勝つことが恩返しですし、勝つことでいろんな人と出会える。相撲が基本ですから」

力士の本分を追求していた。大関に上がる前から自転車にも乗らなかった。7年前には、こう言っていた。

「外に行く時は必ず着替える。お相撲さんである以上、人に見られる。かっこよくいたい。呉服屋の人に聞いたら、先代はおしゃれだったと言っていた。何百万もする着物は自分はまだ着られない。シュッと着られる力士になりたい」

人気の理由は、日本人横綱だからではない。あるべき力士像を追い、それに共感する好角家が多かったからだ。

朝稽古に突然、若い女性アナウンサーや著名人が来ても、ニコリともしない。面識がなければ、ほとんど相手にしなかった。その代わり、足を運べば少しずつ口を開いてくれた。

オフレコの場面では冗舌で、ブラックジョークも珍しくない。親方になれば、NHK中継の解説も務めるはず。口の滑らかさに驚くファンもいると見ている。【10~13年担当=佐々木一郎】