関脇貴景勝(22=千賀ノ浦)が、三重の喜びで大関昇進へ大きく前進した。過去3戦3敗と、唯一勝ち星がなかった鶴竜を、自慢の押し相撲で圧力をかけた末に引き落とした。鶴竜から初勝利、6場所連続の勝ち越し、昨年休場した春場所での殊勲星。昇進目安の10勝以上へ期待感が高まる中、11日目は全勝の白鵬が相手。横綱連破で昇進をぐっと引き寄せる。

大関とりの期待を込められた座布団が、春場所の土俵に降ってきた。その土俵で勝ち名乗りを受けた貴景勝の表情は、勝敗を判別できないほど変化がない。「胸を借りるつもり」で挑んだ横綱戦。過去3戦3敗の鶴竜に初めて勝った。下からあてがわれ、のど輪で圧力を封じられても休まない。ついに引いた鶴竜になお圧力をかけ、最後は引き落として土俵に手をつかせた。愚直な突き押し相撲。「(最後は)脳みそがいい判断をしてくれた。自分のできることは少ない。始まったら夢中だった」。思考はシンプル。極限の集中状態に、雑念が入り込む余地はなかった。

1年前の地獄からはい上がってきた。「出場できるだけで感謝しないといけない」。右足の負傷により休場した昨年春場所で、最後に相撲を取ったのはこの日と同じ10日目。11日目以降は病院で取組を眺め「なにをやってんやろ」と、自分を情けなく思った。今場所は何かと大関とりを取りざたされるが、場所前はあえて「黒まわしをつけていた時のことを思い出したい」と、初心に帰った。

新十両を決めた3年前の大阪と、大関とりの大阪。「あまりそういう(大関とりの)場所とか自分でフォーカスしていない。毎場所が同じ気持ちだから」と平常心を強調した。

最強横綱に勝って昇進を手中に収めたい。大関昇進の目安は10勝以上だが、横綱を圧倒する内容は数字以上の価値を持つ。11日目は白鵬戦。「胸を借りるつもりで、しっかり準備をするしかない」。世代交代、昇進の機運が高まっている。【佐藤礼征】