琴奨菊も左四つにこだわらず上手を取って攻めようと対応したが、今場所の栃ノ心は少々、攻め込まれても慌てないで残せる。踏み込みの鋭さが全てにわたりプラスに働いている。上体も伸びず膝の曲がりも理想的だ。悪い時に見せる棒立ちも今場所はない。左上手を引いて腰をグッと入れただけで琴奨菊の体が浮いてしまうあたりに、体調の良さが見て取れる。

春場所千秋楽で敗れ大関から落ち、地獄の毎日だったと思う。そこから師匠も同行する巡業で立て直したことが大きい。今場所は5勝目あたりまでは、10番勝たないと大関に戻れないという重圧があっただろう。もうここまで来れば大関復帰は有力。それは周囲が思うことで、本人の気の持ちようとしては鶴竜に粘り強くついていくことを考えればいいと思う。無我夢中のまま、気がつけば10勝は通過点でその先に次の目標がある、という流れが理想だろう。(日刊スポーツ評論家・高砂浦五郎=元大関朝潮)