西前頭8枚目の朝乃山(25=高砂)が再び優勝争いの単独トップに立った。優勝を争う関脇栃ノ心との直接対決で、1度は相手に軍配が上がったが物言いがつき、6分近くの異例の長さの協議に発展。行司軍配差し違えで11勝目をつかんだ。物議を醸す判定に救われた形となったが、その後、2敗で並んでいた横綱鶴竜が敗れ、流れが向いてきている。10勝目を挙げた11日目に続く単独トップで、14日目にも初優勝が決まる展開となった。

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勇気を持って真っ向勝負を挑んだ朝乃山が、運に見放されることはなかった。相手は1差で追ってくる栃ノ心。右の相四つの怪力自慢に、立ち合いから果敢に右を差した。頭をつけて走った。苦し紛れのすくい投げにも食らいついた。だが前のめりに落ちた。行司軍配は栃ノ心。悔しくて、すぐには立てなかったが、物言いがついた。実に6分近くに及ぶ異例の長さの協議。あきらめかけたが、行司軍配差し違えのアナウンス。歓声と怒号が入り乱れる中、静かに勝ち名乗りを受けた。

「負けたと思った。本当に分からなかった。ただ、勝つならこれしかないという攻めをできた」。興奮冷めやらず、支度部屋に残ってテレビで見た結びの一番で、鶴竜が敗れた。11日目に続き、再び単独トップ。思わず下を向き、感極まりそうになった。それでも部屋に戻ると師匠の高砂親方(元大関朝潮)に「もっときちんと勝て。ラッキーだったんだから、この運をうまく生かしなさい」と諭された。初優勝のかかる残る2日へ再び奮い立たせた。

無欲の白星だった。冗談交じりに「三賞がほしい」などと話すが、栃ノ心戦については「実現したら恩返ししたい」と常に語っていた。通常なら対戦しないほど番付に開きがある。朝乃山は春巡業で朝稽古が行われた23日間のうち、21日間は相撲を取る稽古を行ってきた。その過半数の日に栃ノ心と三番稽古をこなしてきた。同じ右四つ。「上手の取り方、顔の寄せ方。本当に勉強になった」。何より自信をつけてもらった。

関係者によると、優勝した際に部屋で用意するタイがすでに発注された。高砂部屋としては元横綱朝青龍が最後に優勝した10年初場所以来9年ぶり。朝乃山は冗談で「タイじゃなくてブリがいいかな」と、故郷富山の名産の名を挙げた。出世魚のブリにならい、現在の状態を聞いても「イワシ」と、小ぶりな魚を挙げてかわす。未完の大器が令和最初の優勝へ、秒読み段階となった。【高田文太】