大相撲の元関脇安美錦の安治川親方(40)が、名古屋場所12日目の18日、会場の名古屋市・ドルフィンズアリーナで引退会見を行った。

すでに2日前の10日目に引退を表明しており、前日11日目の打ち出し後に引退と年寄安治川の襲名が承認され、この日の会見となった。会見には師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)が同席。時折、神妙な表情こそ見せたが「スパッといくのが安美錦らしいのかなと思って」と、最後まで涙は見せなかった。誰からも愛された力士らしく、会見後も会見場に残って計1時間報道陣と話し込み、最後は盛大な拍手で送り出された。

会見では元大関魁皇と並ぶ、歴代1位タイの関取在位117場所の長い現役生活を振り返った。現役最多の前頭嘉風、逸ノ城と並ぶ8個の金星は、武蔵丸に始まり、貴乃花と続いた。「横綱はみんな強い。初めて取った金星、武蔵丸戦。その後、貴乃花さんから取った金星は思い出に残っている。武蔵丸さんはすごく大きかったし、土俵に上がって初めて『怖いな』と思った横綱。貴乃花さんは(自分が)最後の相手ということに、結果、なってしまいまして、自分の中でもいろいろと葛藤はありましたけど、今思えば、僕をここまで大きくしてくれた一因でもあるかなと思います」と語った。

それでも、22年半に及ぶ現役生活の思い出の一番については、敢闘賞を獲得した17年11月の九州場所千秋楽の千代翔馬戦を挙げた。ケガの絶えない土俵人生だったが、特に16年夏場所、37歳で左アキレス腱を断裂してからは引退と背中合わせ。思い出の一番は、その大ケガで十両に転落し、1年以上かけてようやく戻った幕内土俵で8勝7敗と勝ち越した取組だった。その一番は、低い立ち合いから頭をつけて出し投げという、幼少期から徹底して繰り返してきた相撲。「いろんな横綱、大関とやってきたのは思い出に残っている。ただ、みんなの支えのおかげで、あそこに立てた。記憶に残っている」と、幼少期からの相撲人生の集大成のように感じたようだ。

現役引退も、2日目に関取最年少21歳の竜虎に敗れた際に痛めた右膝の影響だった。ケガに苦しんだ土俵生活。それでも「ケガとの戦いが続きましたが」と質問されると「戦いというより、ケガと一緒にここまで強くなれた。ケガと戦ったというよりは一緒にやってきた仲間じゃないけど、しっかりと相撲と向き合うことができたのは、ケガのおかげ。ケガにも感謝している」と話し、笑った。

「どんな土俵人生でしたか」と聞かれると、一瞬、間をおいて答えた。「長くやったとか、そういうことより、自分の好きな相撲をここまで長くできた、土俵の上に立てたというのは本当に、幸せだったと思います。本当に、いい力士人生でした」。晴れやかな表情で、胸を張って答えた。1日前まで現役最年長関取だった新米親方が、名実ともに区切りをつけた。