同じ右の相四つだから左の上手をどちらが先に取るか、胸をガップリ合わせるのか-。そんな攻防を思い描いていた結びの一番で、白鵬が右から張ってくるとは予想できなかったな。朝乃山の頭にもなかっただろう。

今年の名古屋場所で勝っている白鵬の胸中を察すれば、苦戦したあの時の、右四つの形を嫌ったのだろう。右四つで失敗するリスクより、左四つに組み止めても取れる方を選んだのだろう。引き出しの多さで長年、横綱を張っている者との経験値の差だろう。流れの中で自分の得意と逆の四つになることはあっても、立ち合いからそれを狙える力士は、そうそういない。だから42回も優勝できる。右なら右、左なら左を磨ききった強い横綱は自分の現役時代にもいたが、あらためて白鵬の運動神経の高さを垣間見た気がする。

逆に朝乃山は、それだけ警戒された証し。この一番を糧に、その上を行けるように精進すればいい。(高砂浦五郎=元大関朝潮・日刊スポーツ評論家)