小結朝乃山(25=高砂)が2敗を守り、新三役場所で勝ち越しに王手をかけた。

取組前まで1勝7敗と苦手としていた、東前頭筆頭の大栄翔をはたき込んだ。秋巡業、今場所前の出稽古で取り組んできた、苦手の押し相撲力士への対策が奏功。今場所は押し相撲の相手に全勝で、同じく2敗の平幕輝と共に、1敗の横綱白鵬を追っている。

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年間最多勝争い単独トップの51勝目を挙げた朝乃山が、今年初めて勝っても懸賞を受け取れなかった。懸賞のない取組は昨年九州場所千秋楽以来。常々「懸賞より白星がほしい」と話しており、苦手の大栄翔を破った喜びをかみしめた。会場から1歩出た瞬間に「うれしさはここまで。明日もあるので切り替える」と、10日目の明生戦を見据えた。

立ち合いから大栄翔の突きをおっつけ、右をねじ込んだ。嫌がって左を伸ばしてきた相手を上から突き、はたき込んだ。大栄翔に苦手意識はなかったが「横綱戦を見ていても突きが強い」と警戒していた。秋巡業では大栄翔のほか、御嶽海ら押し相撲の力士と稽古を重ねた。今場所前も北勝富士や友風らを求めて出稽古。「前は何となく時津風部屋に出稽古したけど、四つ相撲の力士との稽古が多かった」と変化を求めた。

7月の名古屋場所は全8敗のうち横綱、大関戦の3敗を除く5敗は、すべて押し相撲の力士だった。9月の秋場所も全5敗のうち3敗は押し相撲相手。それが今場所は、貴景勝ら押し相撲に全勝だ。距離感、差し手と上手のタイミング、何より立ち合いの圧力に向かう気力が身に着いた。

9日目で新三役場所の勝ち越しに王手をかけた。懸賞はなくても夏場所の優勝賞金は貯金、20万円のベルサーチのバッグ以外、今年は高額の買い物はない堅実派。白星と黒星の差を広げて“貯金”を積み重ねるが「上位に休場が多いから。まぐれ」。優勝を経験したからこそ、中盤戦で優勝を意識しないことが大切と知っている。【高田文太】