一度は引退を心に決めた元大関が、10場所ぶりの関取復帰を確実にした。大関を14場所務めながら膝の負傷と手術、内臓疾患などで番付を序二段まで落として以降、4場所連続勝ち越しで順調に復帰の道を歩んできた西幕下10枚目の照ノ富士(27=伊勢ケ浜)が、全勝対決で西幕下51枚目の対馬洋(境川)を寄り切りで破り、無傷の7連勝で全勝優勝を決めた。幕下15枚目以内で7戦全勝を果たしたことで、来場所の再十両は確実となった。

懐に潜り込み、横からの揺さぶり、足を跳ばしての奇襲で何とか元大関を崩そうとする相手を、腕をかかえながら応戦。左から小手で振り相手を1度、突き放すと最後は右四つに組み止め、左上手も引きつけて盤石の寄り。4場所連続全休明けで序二段まで番付を落とした今年3月の春場所から数えて32個目の白星(32勝3敗)で、関取の座を奪い返した。

肩で息をしながら、唇も小刻みにふるわせての開口一番は「新十両が決まった時より、うれしいです」だった。2年前のこの九州場所。14場所在位した大関から陥落し関脇で迎えた場所も、4連敗で5日目から休場。その後の1年で皆勤したのは1場所だけで、昨年夏場所は途中休場、途中出場と踏みとどまろうとしたが9敗6休みで、とうとう十両からも陥落した。

4場所連続全休を経験し「これでやめたい、という気持ちもあった」と引退に心が傾いた時もあった。「親方やおかみさんから『もう1度、やるんだ』と。落ちても稽古場で一緒に稽古してくれる力士もいる。もう1回、頑張ろうと思った。やってきたことを信じてやれば大丈夫と思ってやってきた。こうやって結果につながって良かった」。厳しい表情は崩れなかったが、言葉の端々に安堵(あんど)の気持ちが表れていた。

テレビの相撲観戦も、今年1月の初場所までは「見ると気持ちが焦っちゃうからつけなかった」と遠ざけた。もう同じ失敗は繰り返さない。焦って、元いた場所(大関)を直視はしない。「もう1回、1年ぐらい今の感じで成長したい。どこまで通じるか試したい」と話すが、確実視される来場所の十両の土俵は「精いっぱいやるだけ」。大関のプライドが邪魔することはない。慎重に少しずつ、今度は幕内を目指して歩みを進める。