西前頭7枚目の阿武咲(23=阿武松)が、東前頭6枚目の宝富士(32=伊勢ケ浜)との、幕内唯一の東北人対決を送り出しで制し、20年初白星を挙げた。

今場所の東北出身幕内力士は、同じ青森・中泊町が同郷の2人だけ。相撲人気も高い東北6県で2人しかいないのは、年6場所制となった1958年(昭33)以降、2012年(平24)初場所以来2度目となる。阿武咲は三役定着だけでなく、貴ノ浪(青森・三沢市出身)以来の東北人大関への基盤を作る。

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阿武咲が本来の姿を披露し、5日目でようやく20年の初日を挙げた。同郷で小中学校や中里道場で10学年先輩の宝富士に厳しい立ち合い。持ち味の下からの突き押し。相手の重い腰をおこして、右からの強烈ないなし。くるりと相手を1回転させて後ろにつくと、左手を強く伸ばして土俵下に送り出した。

今年初の勝ち名乗りだけでなく、岩手・一関市出身の行司・木村晃之助(54=九重)から3本の懸賞金も受け取った。「やっとですね。勝ちというより、自分の相撲がとれたし、感覚的な問題が収穫。しっかり相手を見て、対応できたと思います」。風呂上がりの支度部屋で安堵(あんど)の表情を浮かべた。

歴史的にも東北出身力士が大相撲を盛り上げてきた。年6場所制となった58年初場所では、前頭21枚目までの幕内全55人中13人が東北勢。今場所まで幕内力士不在は1度もない。だが、今場所は豪風と安美錦の2人だった12年初場所に並ぶ最少人数タイ。「やっぱり少なくなっちゃって寂しいですよ。その分、みんなが見てくれていると思うので頑張らなくっちゃと思いますね」。青森県は、横綱を北海道の8人に次ぐ6人を輩出。関取の在籍は、130年以上継続している。未来の力士のためにも東北勢の先頭を走るつもりだ。

18年初場所で右膝後十字靱帯(じんたい)損傷。十両からはい上がってきたが、昨年は1度も2ケタ勝利はなく、納得した結果は出ていない。「いろいろな試練があっても、どれだけひたむきに自分を出せるかが大事。ここからです。自分の勝ちパターンも出ましたし、この1勝をどう良いイメージにつなげていくか」。小学生からの宿敵でもある大関貴景勝(23)に、まずは肩を並べる飛躍の年にする。【鎌田直秀】