新関脇の朝乃山(25=高砂)が、天国に旅立った恩師に勇姿を見せた。平幕の北勝富士を寄り切り、2敗を死守。18日に55歳で死去した、近大相撲部監督の伊東勝人さんに白星を届けた。

3年前の初場所では、高校時代の恩師が亡くなったばかり。天国で見守る2人の恩師に、自身2度目の優勝で恩返しする。

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何が何でもつかみたかった白星。その思いが朝乃山の右手に宿った。北勝富士にのど輪で体を起こされても止まらない出足。前に出ながら懸命に伸ばした右手でさがりをつかむと、力強く握りしめながら右を差して寄り切った。「絶対に離さないという気持ちだった。自分の持ち味が出た」。天国で見守る恩師に届ける会心の相撲だった。

その知らせは、突然やってきた。18日未明、携帯電話に1通のメッセージが届いた。「本当に頭の中が真っ白になりました」。都内の高砂部屋にいた朝乃山は、近大相撲部で同級生の十両朝玉勢と急いで支度した。午前1時過ぎ。都内の病院に駆けつけ、目を閉じて動かない恩師と対面した。「天国から応援をお願いします」。短い言葉に思いを込めて、この日の一番に臨んだ。

連敗を止めた6日目は、恩師の言葉を胸に土俵に上がっていた。5日目夜に伊東監督から「切り替えるのがうまい方だから切り替えてチャレンジ精神でいきなさい」とメッセージをもらっていた。2日前に連絡を取り合っていたばかりだったが故に、訃報にショックは大きかった。それでも「考えすぎると硬くなる。1度頭から離して、前に前に攻めてぶち当たる気持ちでいきました」と土俵上で情けない姿は見せなかった。

数奇な巡り合わせとなった初場所。幕下だった3年前は、全勝優勝して翌春場所での新十両昇進を確実とした翌21日に、富山商相撲部監督の浦山英樹さんががんのため40歳で死去。今回は新関脇昇進を果たした節目に、大学時代の恩師を亡くした。しかし「恩師が2人旅立った。白星、さらに上の番付を目指して恩返しをしたい。また頑張らないといけないという気持ち」と奮い立たせた。

8日目には1差で追いかける正代と対戦する。横綱不在場所で荒れる初場所の優勝争いを占う一番に向けて「場所中だから落ち込んでいる暇はない」と気合を入れる。最後に伊東監督に会ったのは、昨年夏場所で初優勝した時。再び賜杯を抱く姿こそ、天国で見守る恩師に届ける最高の恩返しになる。【佐々木隆史】

○…伊東監督の急死に協会トップの八角理事長(元横綱北勝海)も「本当にビックリした」の言葉を何度も口にした。「うちも何人か入門して大岩戸(元幕内力士)が入った時にいろいろお世話になった。同年代だからショック」と1歳年下の急死を悼んだ。協会トップとしても「力士を送り出し(角界に)貢献してくれた」と謝意。急死の状況を報道陣から説明され「分からないもんだ」と語った。

▽伊東監督の高校、大学の先輩にあたる伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士) 何回も一緒に相撲を取った。いい選手を指導して強くした。(教え子が)力士になってからも応援してくれた。まだ実感が湧きません。

▽近大・伊東監督とは同じ青森出身の阿武咲 びっくりしました。かなり頻繁に会っていましたんで。「ここがダメだ」とか、いろいろ言ってくださった。

▽近大出身の徳勝龍 大学に入らなかったらプロになっていない。(伊東さんが)1番に誘ってくれた。