横綱白鵬(宮城野)が笑顔なき誕生日星を飾った。35回目の誕生日を迎えた11日、隠岐の海を寄り切り無傷の4連勝とした。

9年前に起きた東日本大震災、そして新型コロナウイルスの感染拡大で今場所が無観客開催という特殊な状況に笑顔はなく、神妙な表情で思いを語った。大関とりの関脇朝乃山も4連勝。大関貴景勝が2敗目を喫した。

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力強い相撲で4連勝を飾った取組後、「誕生日おめでとうございます」の声に「ありがとうございます」と返した。その白鵬の表情に笑顔はなかった。9年前にいまだいえない傷痕を残した3・11。そして今場所は新型コロナウイルスの感染拡大で無観客開催となった。「重ね重ねだから、喜んでいいのかというのが正直な気持ち」と言った。

「9年前、何で私はこの日に生まれてしまったのかと思った。怖さ、悲しみ。1日前でもよかったのにと思ったりしたけど、相撲で何ができるか、そういうふうに切り替えた。頑張っている姿を見せられたら、勝つことが勇気になってくれたらという思い」

9年前は26歳だった。以降の3・11は、出場して取組があった場所はすべて白星を飾っている。35歳まで相撲をとるイメージはあったか聞かれ「なかった。自分がそこにたどり着くとは思わなかった」。白鵬自身も「励み」を与えられてきた。

実際、昭和以降に昇進した横綱で35歳を超えて引退したのは6人だけ。白鵬は「20代は35歳というのはおじさんというイメージがあったけど、自分がその年になるとね。精神的には(普通の人に比べ)倍だけど、肉体的には動いているし。この年齢で土俵に上がれているのはうれしいというか、幸せ者だなと思う」。2年前の春場所で単独1位となった横綱在位数は76場所となった。長く務めるからこそ格別な思いがあった。

昨年9月3日に日本国籍を取得後、初めての誕生日でもあった。この日の朝稽古後に「自分には誕生日が2回ある。(3月11日が)生みの親、(9月3日が)育ての親みたいなもの」と話した。第一人者としての責務を背負う。連日、誰も観客がいない中、横綱土俵入りで力強く四股を踏む。初日の協会あいさつで八角理事長(元横綱北勝海)が言った、邪気を払う「大相撲の持つ力」を横綱が体現する。【実藤健一】

▽八角理事長(元横綱北勝海) 白鵬は、これだけやってケガが少ないのも珍しい。準備運動をしっかりやっているからでしょう。若い頃に比べれば(衰えは)あるだろうが、よくやっている。朝乃山は堂々としたもの。押されない、という自信をつけた感じがする。

▽幕内後半戦の藤島審判長(元大関武双山) 白鵬は右が入り左を探りながらという万全の相撲じゃないですか。朝乃山は元気な北勝富士相手に、あの相撲が取れるんだから力をつけた証拠。高安は投げの打ち合いで足が伸び片方に負担がかかったんでしょう。