新型コロナウイルスの感染拡大防止により史上初の無観客開催となった春場所で、関脇朝乃山(26=高砂)が大関貴景勝を押し倒しで破り、事実上の大関昇進を決めた。

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朝乃山には嫉妬したくなる。優勝も簡単にしてしまうし、大関もワンチャンスでものにした。自分なんか7回目の挑戦だったか…。忘れちゃったよ(笑い)。そんなことを言えるぐらい今は緊張が少しほぐれた。弟子の昇進もそうだが、これまで誰も経験したことのない無観客開催を無事、終えたことに安堵(あんど)している。力士は当然、裏方を含めた協会員の頑張りは立派だった。そのことをまず言わせてもらいたい。

朝乃山の今日の相撲は大関を圧倒した。貴景勝の当たりを受け止めて攻め返し左の上手に手が届いてから攻め続けた。これが朝乃山の相撲だ。場所中、何度か食事をして「今日は当たれてない」など短い言葉でアドバイスはした。吸収力の早い子で順応性もある。

ただ大関の地位は厳しいぞ。関脇なら横綱に善戦した、で褒められるけど大関は勝たないとだめだ。それと勝ってメディアに取り上げられるのが関脇まで。大関は勝って当然、負けて取り上げられる。覚悟が必要だ。自分も37年前、今も宿舎を構える久成寺で大関の使者を迎えた。12月に定年を迎える年に、同じ場所で弟子が使者を迎えるのは感無量だ。朝乃山のしこ名には、大切な亡き恩師の名前が入れられている。それを奪って朝潮に改名させることなど自分には出来ない。朝乃山が定着すればいい。(高砂浦五郎=元大関朝潮・日刊スポーツ評論家)