関脇正代(28=時津風)がついに賜杯を手にした。新入幕の翔猿に攻められ、追い詰められた土俵際で逆転の突き落としを決めた。13勝2敗の好成績で審判部の伊勢ヶ浜部長(元横綱旭富士)は八角理事長(元横綱北勝海)に大関昇進を諮る臨時理事会の招集を要請。恵まれた体を「ネガティブ」と言われた弱気な性格で生かせなかった大器が目覚め、初優勝と大関の夢を一気にかなえて涙した。

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正代の快挙を、時津風部屋付きの井筒親方(元関脇豊ノ島)は全く不思議がらなかった。「今年になって近い人には『(大関に)上がりますよ』と言っていた。地力がついている。(14日目に)朝乃山の体を浮かせたのはびっくりしたけど」と笑う。4月に引退したばかりで現役力士の目線には近い。「部屋の一員として、春場所の関脇での勝ち越し、7月の11勝で自信がついたんだと思う」と精神面の成長を語った。

場所前に師匠が不在となる異例の場所だったが「影響はなかった」という。師匠代行の枝川親方らが審判部の職務で不在でも、部屋付き親方として稽古場で目を光らせていた。

躍進を支えたのが、腰高ながら破壊力のある立ち合いの当たり。井筒親方も正代の入門当時から指摘してきたが「正代の場合は体を丸めることが逆にストレスになる」と気付き、ここ1年は矯正しなかったという。「人がまねできない新しいかたちだね」と認めた。

絶好の“稽古台”だからこそ成長できた。場所前には横綱鶴竜が出稽古に訪れ、巡業の三番稽古では横綱、大関陣に指名されることが多かった正代。井筒親方は「高いレベルでやってきて着実に力がついたんでしょう」と分析する。なぜ稽古相手として人気だったのか。「正代はあごを上げてるから、やってる方もいい稽古台になる。思い切り当たれるから」。のけ反るように胸から当たる立ち合い。かつては弱点と呼ばれたが、成長のきっかけとなった。【佐藤礼征】