大関正代(29=時津風)が勝ち越してかど番を脱出し、2敗を守った。相撲巧者の遠藤と激しい攻防。最後は突き落としで、物言いがつく際どい勝負を制した。9日目に初黒星の西前頭筆頭大栄翔は、引きずらずに1敗をキープ。優勝争いは、この2人を3敗の朝乃山、明生、逸ノ城が追う展開となった。

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無邪気な笑顔だった。引き揚げた西の花道、出迎えた井筒親方(元関脇豊ノ島)に「おめでとう」と声をかけられた正代は、思い切り表情を崩した。「相撲内容が危なかったのもありますが、緊張から解き放たれた表情が出たんじゃないかと思います」。抑えられない感情があふれ出た。

勝ち越し、かど番脱出をかけた一番も「苦難」だった。遠藤と立ち合いから激しい差し手争い。先に上手を許した苦しい体勢を左からすくって、必死に立て直す。最後は土俵際で倒れ込むように突き落とし。物言いがついたが「軍配通り正代」のアナウンスに今までにない安堵(あんど)感が押し寄せた。

「今までの、どの勝ち越しもうれしいが、その中でも表現しにくいがうれしいというよりホッとした。ずっと息苦しさがあった。場所前から追い込まれて精神的に余裕なかったんで、解放された感じです」

先場所、新大関の晴れ舞台で左足首を痛めて途中休場した。休場は初めての経験。いきなりのかど番に昨年末、「正直、あせりと不安はあります。変に意識せずとは思うが、早くかど番を抜けて心に余裕を戻したい」と明かしていた。苦労してつかんだ地位を手放してしまうかもしれない危機。その重圧も、大関になって初めて知った。

コロナ禍で不要不急の外出禁止。気分転換もできないが、正代には逆に好都合だった。「外出禁止は逆にいいかもしれない。自分の時間に集中できる」とも話していた。もともと、外向的ではない。部屋でゆったり、好きなアニメを見て不安な心を和らげてきた。

1つの目標をクリアし、次は大関として「優勝争い」が待つ。大栄翔を1差で追う、残り5日。「残り全部勝てるように集中し直して頑張っていかないといけないですね」。かど番を抜け、2度目の賜杯への戦いに立ち向かう。【実藤健一】

 

▽1敗 大栄翔

▽2敗 正代

▽3敗 朝乃山、明生、逸ノ城