西前頭筆頭の大栄翔(27=追手風)が自己最速で2桁10勝目に到達した。3敗の明生を下して2敗を維持。上手を取られる苦しい展開だったが、土俵際で逆転の突き落としを決めた。物言いがついたが、行司軍配通り。連敗はせず、初優勝に向け1歩前進した。大関正代も10勝目を挙げてトップを並走。3敗がいなくなり、賜杯争いは2敗の2人に絞られつつある。

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内容には不服でも、発する言葉には安心感がにじみ出ていた。2敗を死守した取組後のリモート取材。大栄翔は「ひとまず10番勝てたのは良かった。(白星を)拾えた意味では大きい」と話し、少し息を整えた。

賜杯争いの先頭を走る緊張感からか、4連勝中の相手に大苦戦を強いられた。「ちょっと見ていきすぎた」。明生に突きを下からあてがわれ、思わず引いてしまう場面も。2度いなされて右上手を許すと、左四つで体を寄せられ俵に足がかかった。「精いっぱい残った」。執念で左に回り込み、明生は土俵に腹ばい、大栄翔は土俵下に落ち、軍配は自身に上がった。同体ではないかと物言いがついたが、協議の結果は行司軍配通り。「ぎりぎりでした。ああいう形になってしまう時点で甘い」と猛省した。

攻防のある相撲で国技館を沸かせたが、出身の埼玉県朝霞市も郷土力士の躍進に興奮を隠せない。同市の担当者によると、緊急事態宣言下のため現段階では「検討中」と慎重な姿勢ではあるが、今後優勝が懸かる一番が実現すれば十分な感染対策を行った上で市内でパブリックビューイング(PV)を行う可能性もあるという。同市でのPV実施は、陸上女子400メートルリレーで同市出身の土井杏南(25=JAL)が第1走を走った12年ロンドン五輪が最後。当時は約100人を収容できる市内の公民館が埋まった。くしくも土井は大栄翔と同じ朝霞市立第一中-埼玉栄高の出身。世界を経験した2学年下の“後輩”に迫る活躍ぶりだ。

同じ2敗でも優位な立場にある。首位を並走する正代は、千秋楽まで役力士との対戦が続く見通し。自身は残り3日間、番付が下の平幕と戦う。日に日に強まる重圧。「最後まで1日一番(という意識)は忘れないようにしたい」と自らを奮い立たせた。【佐藤礼征】

 

◆幕内後半戦の高田川審判長(元関脇安芸乃島) 大栄翔は本当に動きがいい。成績がいい時は、こういう相撲が何番かある。9割方負けていたけど、この一番は大きい。後半戦はもたもたしていたけど、今日の勝ちを拾ったのは大きい。正代は本当に厳しい相撲だった。

◆八角理事長(元横綱北勝海) 大栄翔は勝ちたい気持ちから、はたいたり、いなしたり、動きはぎこちなかったがよく残った。最後まであきらめないで必死にやった結果。ただ中日までの見事な相撲を取らないと優勝は見えてこない。正代は安全にいって勝った。実力がある証拠。両者のどちらが有利かというのはない。

◆12日目の敢闘精神評価3傑◆〈幕内〉(1)大栄翔 85P(2)琴勝峰 75P(3)翠富士 74P〈十両〉(1)宇良 94P(2)王鵬 72P(3)矢後 58P ※投票51人