部屋の力士から新型コロナウイルス感染者が出た影響で大相撲初場所を全休した友綱親方(元関脇旭天鵬)が20日、報道陣の電話取材に応じ「初めて(の経験)だったから動揺した」と当時の心境を振り返った。

感染したのは幕下以下の力士1人だけで症状もなかったが、部屋の全力士が休場を余儀なくされた。感染した当該力士について師匠は「一番気の毒。彼の精神的なことが心配だった」と弟子の心情を推し量る。当該力士は数日間、部屋の中で隔離。別室から電話した際は「かわいそうに『自分のせいで』と泣いていた」と明かした。保健所の指導に従い、その後は5日間入院。当該力士を含めて全員に症状は発生しなかったが、九重部屋では場所中も相次いで新規感染者が判明し、友綱親方も「ニュースを見て、いつ自分たちもそんなふうになるか分からないと不安もあった」と落ち着かない日々が続いた。

家族への感染も心配だった。長女の柚希ちゃん(12)が、初場所後に中学受験を控えていた。学校も塾も休ませて、追い込み時期を自宅で過ごすことになったが、受験は無事に合格。「塾にも行かず自宅で勉強して受けるのは難しかったと思う」と娘をねぎらった。自身は外出ができない中、音量を最小限に落として韓国のドラマや映画を観賞。「韓国語をしゃべれるんじゃないかと思うくらい見た。娘が受験の中、静かに見ていましたよ」。初場所中は部屋の力士が外出できない中、買い出しを行うのはおかみの恵子夫人。「おかみさんも周りに気を使いながら出かけていた。みんなにいるものを聞いて紙に書いて買い出しに行っていた」と感謝した。

休場中の力士は時間を分けて稽古場に下り、マスクをつけながら四股などで体を動かしていた。ぶつかりなどの接触を伴う稽古は避けていたという。手本になったのは十両旭大星(31)。家族が居る自宅で過ごす選択肢もあったが、力士らのPCR検査の結果が判明した1月8日から千秋楽翌日の25日まで、部屋で過ごすことを志願した。「(部屋を)出入りできない状態になったことを旭大星に伝えたら『僕はトレーニングとかしたいので今日から部屋にいます』と。子どもも奥さんもいるのに。30過ぎてるからいつまで(土俵に立つことが)できるか分からない、足のけがもある、いろんなことを判断して決めたと思う。若い衆も関取がいることでトレーニングの内容も変わる。彼はすごく偉いなと思った」と師匠。若い衆の手本となってくれることがありがたかった。

春場所(3月14日初日、東京・両国国技館)に向けて力士らは現在、精力的に稽古を重ねている。弟子にはことある事に「他のお相撲さんよりも1場所(多く)休ませてもらったわけだから、3月場所は全員勝ち越す気持ちでやらないとね」と言葉をかけている。困難を乗り越え、2場所ぶりとなる本場所を見据えた。