照ノ富士(29=伊勢ケ浜)が、冷や汗をかきながらも2場所連続のストレート給金を決めた。東前頭4枚目玉鷲に土俵際まで押し込まれたが、踏ん張って逆襲した。

新横綱の中日勝ち越しは1場所15日制が定着した1949年(昭34)夏場所以降では、17年春場所の稀勢の里に続いて6人目の快挙。横綱昇進を決めながら、賜杯を逃した先場所の悔しさを胸に新横綱Vを目指す。平幕の妙義龍が1差で追走する。

   ◇   ◇   ◇

館内に悲鳴が上がると、土俵際の新横綱も顔をしかめながら踏ん張った。立ち合いは玉鷲の奇襲。左にずれながらのおっつけ、右のど輪で崩され、照ノ富士の上体が伸びかけた。「一生懸命だった」と余裕はなかったが、差した左でかいなを返して圧力を逃がす。すかさずもろ差しから体を入れ替えて、反撃に転じた。中日勝ち越し。今場所初めてヒヤリとさせられたが、新横綱では史上6人目の快挙だった。

1週間前の日曜日に“戦友”が駆け付けてくれた。照ノ富士の付け人を約5年間務めた元幕下駿馬(しゅんば)の中板秀二さん(39)が“横綱デビュー”となる初日を、正面マス席の1列目から観戦。堂々とした土俵入りに中板さんも「うれしいとか感動とか、いろんな感情がいっぺんにきた」と胸いっぱいになった。

今場所に懸ける思いを察している。横綱昇進を手中に収めた先場所の千秋楽後、照ノ富士に連絡を取ったが、喜んでいる様子はなかったからだ。「『優勝を逃して悔しいです』と。今場所はテレビで見ていても“顔つき”が違うんです」。長く苦楽をともにしてきたからこそ、表情一つで感じるものがある。

新横綱として2度目の日曜日を、土つかずで迎えることができた。コロナ禍で上限は5000人に制限されるが、集まった観客の拍手が力になる。「土俵の上でいい相撲を見せられたらいいなと思っている」と照ノ富士。3度目の日曜日は、賜杯を抱えた姿を見せるつもりだ。【佐藤礼征】