阿炎は一瞬だけ夢を見た。「横綱に胸を借りるつもりでいった」。初対戦だがいつものように動画研究を尽くして臨んだ。もろ手突きからのど輪攻めで土俵際まで追い込む。そこから分厚い壁だった。残されて抱え込まれ、腕を抜こうとしてバランスを崩し、最後はあおむけに押し倒された。

日本相撲協会のガイドライン違反による出場停止処分をへて、1年ぶりに戻った幕内での快進撃。以前はすぐ引く、はたくが目立った相撲が変わった。出場停止の間、ひたすら四股を踏んだ。筋力トレーニングも取り入れ、体の土台を作り直した。何より「相撲だけに向き合う」という心が変わった。

負けた悔しさはにじませない。「(横綱に)自分の弱さを気づかせてもらった。もっと厳しくいきたい」。長い手足の恵まれた体から繰り出す突き押し相撲。今回は完敗の阿炎だが、可能性は示した。【実藤健一】